バレンタイン(220214)
――女の子はなにでできてるの?
――砂糖とスパイス。
――それと素敵ななにか!
だとすれば、それはまさしく女の子。成程、女の子のイベントだ。
甘い香りを纏い、鼻歌を歌いながら踊るように台所を動く少女たち。彼女らと親しくなってから随分見慣れた光景だ。今年は新しく花の刺青を持つ少女と、水のような髪を持つ少女も加わっている。
「あ、沢田さん」
台所の入り口で覗き見していたところを見つかり、綱吉は小さく笑みをこぼした。抱えていたボウルをブルーベルへ預け、ユニは綱吉の方へ駆け寄った。
「バレンタイン?」
「ええ。日本式は初めてです。楽しいですね」
リボーンから、イタリアでは男性から花を渡すことが多いと教えられたことを思い出し、綱吉は成程と呟いた。
「薔薇と交換するの?」
ユニは少し頬を赤らめ「そうできると嬉しいです」と微笑んだ。
「沢田さんは?」
「俺? ……あー、いや」
言葉を濁し、綱吉は頭を掻く。イタリアでは男性が主導するイベントでも、日本では女の子が主役のイベントだ。昨今はその影響を受けつつあると言っても、日本育ちの綱吉はやはり気後れしてしまう。
ユニはクスクス笑って、綱吉の脇に垂れていた手を握った。彼女の纏う甘い香りが、その手を伝って綱吉の肌を撫でる。
「大切な人への言葉はイベントに拘らず口にするべきだと思いますが、便乗したい気持ちはやっぱりあります」
「ユニ……」
「それは別に、卑下するようなものではないと思います」
キュッと柔らかい両手に包まれた左手に、ジワリと温もりが与えられる。綱吉は一二度パチパチと目蓋を動かして、ゆっくり口元を緩めた。
「ありがとう」
「いえ。素直じゃないパートナーを持つと、お互い苦労します」
「あはは、γも言いそうだね」
綱吉はもう一度礼を口にした。ユニはコクリと頷いて、綱吉の手を離す。
「はひ、ツナさん、また出かけてしまったんですか?」
台所へ戻ってきたユニと聞こえて来た扉の閉まる音に、ハルはコテンと首を傾げた。ユニは小さく笑って「忘れ物があったみたいです」と呟いた。
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