なみだ(220207)
「あれ?」
間抜けな声が、地熱に晒された戦場に響いた。濡れたトンファーを持ったまま雲雀が振り返ると、シュゥと額の炎が消えていく中、茫然と手の平を見つめて綱吉が立ち尽くしていた。
何を呆けているのだと文句を言おうとした雲雀は、しかし口を開いたまま僅かに目を開いた。
ボロボロと、ビー玉のように丸い雫が、砂埃で汚れた頬を滑り落ちていく。幾つかはグローブをはめた手の平にも落ちたようで、綱吉は緩く開いたそこをじっと見つめていた。
ポロポロ、雫は止まる気配がない。
「え、なんで、」
ぐし、と鼻を鳴らし、綱吉は我に返ったように腕を持ち上げてゴシゴシと目元を擦る。綿の袖と毛糸の手袋が、すべてとは言わずとも雫を吸っていく。それでも溢れる涙は止まらず、綱吉の目尻から頬に赤い傷がついた。
雲雀はトンファーをしまい、バタバタと動く綱吉の手首を掴んで止めた。キョトンと見上げる琥珀の瞳は、カップの中に溜まった紅茶のように水で潤んでいる。砂埃の汚れだけだった頬は、赤いひっかき傷以外目立った外傷はない。
戦場外で作られた傷に、雲雀の眉間へ皺が寄る。
ボロリと一際大きな雫が綱吉の赤い頬を伝って、雲雀の手の甲に落ちた。
「ヒバリさん……目が……痛いです」
鼻もツンと痛むのか、綱吉はくしゃりと顔を歪めた。
「催涙スプレーを吸い込んだんでしょ」
「さい、るい」
ズビ、と小さく鼻を啜って、綱吉は目を閉じる。パシパシとまつ毛が目の端に溜まった雫を叩いて、辺りへ撒き散らす。
「……これ、いつまで続くんでしょうか?」
「顔を洗えば少しはすっきりすると思うけど」
小さく呻きながら、綱吉は薄ら目蓋を持ち上げる。
雲雀は握ったままの手首を少し引いて、頭を屈めた。
「ひ」
冒頭と似た、間抜けな声。
ジャリとした砂と水っぽい塩の味、苦みは薬品だろう。舌を小さく伸ばしたまま顔を離して、雲雀はペッと唾を吐き捨てた。
「ひば、」
「帰るよ」
パッと手を離し、雲雀はさっさと踵を返す。ひっかき傷や運動によって巡った血潮とは別の理由で額まで真っ赤にした綱吉は、言葉にならない文句を呑みこむ。そうして、バイクへ向かった雲雀の背中を追いかけた。
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