チューリップ(220131)
開け放たれた窓の枠に足をかけて中を覗き込んだ雲雀は、そこへ広がっていた光景に目を細めた。
「チューリップ・バブル?」
「ちゅー……え?」
目を瞬かせる相手に首を振り、雲雀はストンと部屋の中へ足を下ろす。靴は、以前赤ん坊に咎められたので脱いである。
普段よりは整頓された部屋の中、机の上には根を切られたチューリップが置かれていた。それもどっさりと。ともすれば山のようなそれを、カーペットの上で胡坐をかいた沢田綱吉は、どうしたものかと扱いに悩んでいる様子だった。
「どうしたの、それ」
「ランボたちが貰ってきたようで……どうもお手伝いの駄賃らしいです」
詳しい経緯は雲雀も興味ないことだが、どうやら沢田家の騒がしい居候三匹と、他校の女子が何やら小さな事件に巻き込まれたらしい。その報酬が、このチューリップの山だという。
「これでも、母さんがいろいろアレンジやらお裾分けやらしたんですよ」
こちらは綱吉の取り分だと、渡されたらしい。
山の上から赤い一輪を摘まみ上げ、雲雀はクルリと指の間でそれを回した。
「通りで今日は、町のいたるところで花を見るわけだ」
「多分ハルたちですね」
「君も配りに回らないのかい? 例えば笹川妹に、とか」
途端、綱吉の頬にサッと朱がさした。しかし雲雀の顔を見て揶揄われていると察し、唇を尖らせた。
「とっくにハルが渡してしまって、今は一緒に配り歩いていると思います」
「そう」
軽く相槌を打って、雲雀は摘まんだ茎を指の腹で滑らせる。クルリと震えた花弁の隙間から、黄色いおしべが見えた。
「ヒバリさんも一輪いかがですか……なーんて」
「そうだね」
「え」
プチ、と。雲雀は茎の付け根に爪を立てた。花弁の塊になったチューリップを持ち上げ、ポカンとする綱吉の前で膝を折る。そのまま、雲雀は手にした赤い花を綱吉の頭へふわりと置いた。
コクン、と綱吉が喉を動かすと、僅かな振動で花が膝に滑り落ちる。
「……ヒバリさん、意外とそういうことするんですね」
「一輪どうかと言ったのはそっちだ」
クルリと転がる花を手で掬い、雲雀はクンとそれへ鼻を寄せた。
「どこかのおとぎ話では、王冠に喩えられたそうだ」
「……俺には可愛すぎますよ」
それから手に乗せられた赤いそれを見つめ、綱吉は少し顔を顰めた。
「やっぱり意外です。ヒバリさん、おとぎ話に詳しいんですね」
「そう」
雲雀は短く返事をして、じっと綱吉と彼の手に乗った赤い王冠を見つめている。
付き合いの時間も長くなってきたが、やっぱり彼の男は綱吉の理解の範疇を超えている。こっそり息を吐いて、綱吉は渡された王冠をそっと両手で包んだ。
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