明けましておめでとう(220103)
カーテンの隙間から差し込む白い光が、頬に落ちる。つ、と目蓋の上まで線を引くそれを意識の外で感じながらも、綱吉の意識はフワフワとした眠気に引っ張られていた。朝になった、起きなければ。頭の一方でそう思うものの、眠気の引力が強くて目蓋どころか指先すら動かない。
そうしてドロドロとした眠気の浅瀬に浮かんでいた綱吉の意識は、とうとう携帯端末のアラームでパチンと叩かれた。それでも飛び起きるほどではなくて、パチリと目を開くだけ。ウト、と眠気の名残をまつ毛で散らかしながら、綱吉は枕元に置いていた携帯端末を取り上げた。
画面に表示されていたのは、親友の名前。腕をついて少し上半身を起こしてはいるが、腰に乗る重石のせいであまり身動きがとれないでいる。少々行儀が悪いと思いつつ、タプ、とのんびりした動作で着信ボタンを押し、綱吉は端末を耳に当てた。
「もしもし、おはよう、エンマ」
「おはよう、ツナくん。まだ寝てた?」
「うん、ちょっと」
「ごめんね」
「いや、気にしないでよ」
今日だけの特別な挨拶を交わした後、炎真は少し笑ったようだった。
「ツナくんが良ければ、お昼ごろに初詣に行かない?」
「えーっと」
チラ、と綱吉は足元を見やる。黒い重石は動く気配がない。
「多分大丈夫」
山本は部活のメンバーと、奈々たちはとっくに出かけていることだろう。
綱吉の言葉に、炎真は嬉しそうな声色で約束の時間と場所を告げた。
「雲雀さんにも、よろしく」
最後に、そんなことを言って炎真は通話を切った。
通信が切れたことを示す画面のマークを見つめ、綱吉は小さく吐息を漏らした。
「なんで……?」
「覗き見してたからだろう」
綱吉の疑問に答えた声は、くぁと欠伸を漏らして布団から起き上がった。拘束していた重石もなくなり、綱吉はガバリと身体を起こす。
「覗き見?」
「年末の、夜。その二の住処の前で待ち合せなんかするから」
ガシ、と襟足のあたりを掻いて、雲雀はスタスタと洗面所へ向かっていく。綱吉は慌てて彼の後を追った。
「気づいてたんですか?! な、なんで言ってくれなかったんですか!」
「気配と視線に気づけない方が悪い。それに、言ったところで意味なんてないだろ」
「だって、今の話じゃエンマに……!!」
バシャバシャと顔を洗う黒い背中へ叫んでも、暖簾に腕押し。じわじわとその夜の自分の行動を思い出してきて、綱吉は乾燥と寒さ以外の原因で赤くなる顔を抱えてしゃがみこんだ。
「初詣行く約束しちゃった……どんな顔すれば……」
炎真はそれで揶揄うような男ではないが、綱吉自身が恥ずかしすぎていたたまれない。
濡れた顔をタオルで拭きながら、雲雀はブラウンの頭を見下ろした。相変わらず、雲雀恭弥にとって沢田綱吉の思考回路とそれに伴う感情は、理解できても共感し難い。他人からの目を気にするという場面が、雲雀にはあまり経験ないのだ。
「初詣行かないの?」
「行きます。もう少し……ちょっと整理させてください」
「そう。……僕も行こうかな」
「屋台の徴収ですか?」
しゃがんだまま、綱吉は顔を上げる。雲雀は使用済みのタオルをカゴに入れて「それは風紀委員に任せてある」と言った。それから膝を折って綱吉と視線の高さを合わせた。
「一緒に行こうか。いつもの番犬はいないんだろ」
「……そう、ですね」
意外すぎる言葉を聞いた、と言った風に綱吉の頬が引きつる。失礼なことを考えているような気がして、雲雀はその頬を指で摘まんだ。
「明けましておめでとう」
曲げた膝に頬杖をついて、雲雀は一言。綱吉がキョトンと目を瞬かせると、雲雀は目を細めて、赤い頬を親指で撫ぜた。カァと口元を綻ばせ、綱吉も微笑む。
「……明けましておめでとうございます、雲雀さん」
綱吉の言葉に、雲雀は満足そうに口元を緩めた。
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