途切れたファンタジア
「ナルトから…?」

シカマルは訝し気にヤマトを見つめた。
彼にああ、と頷いてヤマトは腕を組む。

「正確にはサイからと言うべきかな」

キバは意味が解らず首を傾いだ。

「サイが先程捕らえられた」

罪状はナルト脱獄の手引き。
しかしナルト自身に脱獄の意思はなく、失敗に終ったという。
そのサイがこちらに向かっているであろうシカマル達に伝えてくれ、と。
ナルトの言葉を。

「ナルトは言ったそうだ―――『俺は木の葉の忍だ。最期まで忍として在らせてくれ』と」

「そん、な…」

サクラはぐ、と拳を握り締めた。
ヤマトは黙り込んだままの男達にも視線を向ける。

「このままナルトを追うなら君達は公式に抜け忍となる―――それでもいいのかい?」

どきりとした。
その可能性を、考えなかったわけじゃない。

直後キバを襲ったのは紛れもない恐怖だったが、彼は頭を振り払ってそれを否定した。
今それに負けてしまえば、里の大人達と同じになってしまう―――そう思ったからだ。

「ふざけんな!そんなもん関係ね――」

「それは困る」

サクラは目を見開いた。
怒鳴るキバの言葉を遮ったのは他でもない、シカマル。

ヤマトも意外そうに眉を上げた。

「俺には師との約束があるんだ。抜け忍には…なれない」

「シカマル?」

サクラが呟いて、キバがシカマルの頬を殴り付ける。
衝撃を受けた体は、近くの木に叩きつけられた。
よろめくシカマルの胸倉を掴み、キバは無表情の彼を睨み付けた。

「何言ってやがる!ふざけてんじゃねぇぞ、シカマル!」

アカデミーの頃から悪戯四人組として一括りにされていた。
当初不満だったそれを、何時しか居心地良く感じていた。
純粋に四人でいるのが楽しかった。
けど。
無邪気に笑うナルトがいて。
それを何処か愛しそうに見つめるシカマルがいて。
ああ、彼は好きなのだと。
本人すら自覚していない感情を、漠然と理解して。
キバにとっては、大好きな人を大切にしてくれる人だから。
二人とも好きだったから。
その幸せな顔を近くで見れるその時が、好きだった。
願わくば、彼らが幸せであれと、幼いながらに祈った。
なのにそれを、依りにも依って、本人に。

「手前だから俺はナルトを譲ったんだ。お前なら、あいつを幸せに出来るって…!」

里での迫害を、幼少のキバは知らなかった。
只持ち前の野生の勘がナルトを毛嫌いする大人の感情を読み取って。
ああ、こいつは幸せじゃないんだ、と。
手を繋いでやりたかった。
出来なかったのは、己の力不足から。
だから、彼に願いを託した。

「手前がナルトを傷つけることだけは赦さねぇ!」

キバが叫んでも、シカマルは眉一つ動かさない。
苛立ってもう一発と振り上げた拳は、ヤマトの術によって防がれた。

「はいそこまで」

印を組む。
途端地中から伸びてきた木材がサクラ達三人を取囲み、即席だが牢を組み立てた。

「大人しく里に戻ってもらうよ」

キバは大きく吠えると、上げかけた拳を地面に叩きつける。
彼から解放されたシカマルは幹に背を預けると、ずるずると座り込んだ。

すっと三人の死角になる腰に手を差し入れ、丸い玉を取り出す。
ぎらりと、黒燿の瞳が光を帯びた。

白い煙が辺りを覆ったのは、そのすぐ後のことだ。



大切なひとだから
護りたいんだ
巻き込みたくないんだ
自分のエゴの為なんかに




2011.08.16
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