半分こ(211115)
綱吉の記憶の限り、誰かと何かを半分に分け合ったことはない。
沢田家は長らく母一人子一人といった生活だった。居候が増えてからも幼い彼らと半分ずつ分け合ってはとても足りなかったから、全て譲ることの方が多かった。獄寺と山本とは親しくなったのもほぼ同時期だったので、三人で一口ずつ回すことくらいしかしたことない。
だからまさか、初めての他人との『半分こ』をこんな場面で、こんな相手とするなんて一ミリも想像していなかった――とは、ただの言い訳だろうか。
「さっさとして」
「いや、その」
背後は壁、目の間には憮然とした表情で瓶を突き付ける雲雀恭弥。他には何もない。入り口は一つだけ。そこは数分前から、追手の暴徒が入ってこないように、増殖したロールが固く閉ざしている。
「草壁が来るまであと数十分以上はかかる。その前にここでくたばられたら、こっちが迷惑だ」
「いや、分かってますけど」
二人だけなら、それほど狭さは感じないエレベーター内。廃ビルにあるそれは既に動力を失って、ただの箱になっていた。閉め切られた密室空間、熱中症もそうだが、二人は別の意味で息を荒げていた。
「マフィアと繋がっているから、炎を使うことは予想していましたけど、まさか毒まで……最近のチンピラって物騒……」
「事前調査である程度予想はしていた。だから解毒剤は用意していたけど……君まで毒を吸い込むとは思わなかった」
心底呆れたように雲雀はため息を吐く。返す言葉もなく、綱吉は口を噤んだ。
発端は、風紀委員長の標的がマフィアの下端と繋がっていたことによる。そこでリボーンに尻を叩かれるまま、綱吉も彼の風紀執行に参加することになった。その際中、ちょっとした不運とドジを踏んで、綱吉と雲雀は敵の投げた毒煙を吸い込んでしまったのだ。
雲雀が綱吉に突きつけているのは、彼が伝手で用意した解毒剤。一人分しか持っていないらしく、それを綱吉が飲むよう強要してきていた。
「僕はこれより強い毒に耐えた実績がある。君なんかはすぐに死にそうだ」
「そ、そりゃヒバリさんはそうでしょうけど……でもやっぱりヒバリさんのだから……」
幸い、綱吉は身体が火照って眩暈がする程度だ。これなら草壁が追加の解毒剤を持ってくるまで我慢できる。
綱吉が汗の浮かぶ口元を持ち上げてヘラリと笑うと、雲雀は深く眉間に皺を寄せた。それから、どこか苛々した様子で舌を打つ。
「……なら、半分こだ」
「は?」
ガシリ、と顎の骨を掴まれた。目を白黒させる綱吉の鼻先に、雲雀の顔が迫る。何をする気だ、と言葉も出せず綱吉はグッと目を瞑ってしまった。
――ゴクリ。喉が動く音。次の瞬間、綱吉の無理やり開かれた口に、無機質な物体が突き付けられた。
「もが!」
「溢すな」
雲雀恭弥が、瓶を無理やり口に突っ込んだのだ。突然のことに対応できない綱吉は、喉に流し込まれた液体を人体の仕組みの通りに飲み込んでしまう。
「えほ、げほ!」
「吐き出さないでよ。ただでさえ規定量の半分しか飲んでないんだから」
瓶を取り払われると同時に床に手をつき、項垂れて咳き込む。そんな綱吉の頭を見下ろし、雲雀は空になった瓶を部屋の隅に放り投げた。
「は、はんぶん……?」
酸欠のせいで先ほどよりも顔が熱い。口元の涎を手で拭いながら、綱吉は顔を上げた。
雲雀がペロリと、舌で口端を舐める。その瞬間をバッチリ目に収めてしまい、綱吉は思わず言葉を飲みこんだ。
「そ。半分こだって言っただろ」
綱吉の間抜けな顔が愉快だ、とでも言うように雲雀は口端を持ち上げて見せる。ついでに綱吉の顎に垂れた水を親指で拭われてしまえば、一際強い熱が頭を駆け抜けた。
「ヒバリさん!」
綱吉の悲鳴じみた声は、扉を吹き飛ばした破壊音にかき消されてしまった。
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -