独り善がりのアリア
薄暗い所だ。
灯り取りの窓なんてないから、光源は全て朱の炎。
それも常に看守の手中で奥にあるから、ここはいつも夜だった。
石造りの床に立って左右を見渡せば、太い木で組まれた格子がずらりと奥まで続いている。
それらは咎人を捕らえておく為のもので、全て鍵穴には札が貼られていた。

大分暗闇に慣れてきた目を閉じ、ナルトはその牢の一つの中で壁に背を凭れていた。

投げ出された足にも、前に回された手にも頑丈そうな鉄枷が嵌まっている。
普段の彼ならいざ知らず、体力気力共に限界の今、その枷を外すことは困難であった。
太陽の光を集めたような金糸でさえ、くすんで見える。

その痛々しい様子にサイはこくりと唾を飲み込み、牢の鍵穴を封印する札を剥がした。
眠らせた看守から拝借した鍵を露になった穴に差し込むと、音で気がついたのかナルトが瞼を持ち上げた。

「…サイ?」

力無く呟く。
サイは鍵を回すと格子の扉を開け、ナルトのいる内部へと体を滑り込ませた。
呆然とその様子を見ていたナルトに、手を差し出す。
ナルトはまた呆然とそれを見つめるだけだった。

「ナルト、逃げよう」

それがサイの目的はだった。
シカマル達がナルト救出に乗り出しているなら、自分も協力するべきだと。
仲間として。
そう、思ったから。

しかしナルトはサイの顔を見上げ、力無く首を振った。

「なんで…!」

思わず荒げそうになる声をぐっと堪える。
ナルトは微笑みを浮かべ、自らを縛る枷に目を落とした。

「サイに迷惑かかるってば」

「僕は、」

「ああ。仲間だからこそ」

迷惑をかけたくない、と。
言って、彼は目を閉じる。

サイは顔を伏せ、ポーチから狐の砂人形を取り出した。
ナルトの前に屈んでその手に乗せると、不思議そうに目が開かれる。

「風影から君へ。友情の証だそうだ」

指を曲げて人形を握らせ、その手を両手で包む。
願うように頭を垂れて、手を額につけた。

「シカマルもサクラも…皆、君を助ける為に走ってる」

蒼の瞳が大きく開かれる。
だから、と吐き出すサイの声が牢に響いた。

「…君が、諦めないでよ…」

君は僕らの希望で、道標で。
いつだって僕らは君の背中を追いかけていた。
追い越したくて。
隣に立ちたくて。
肩を支えたくて。
共に歩きたくて。

その光は消えないと信じていた。
信じていたかったのかもしれない。
それでもこの光を失いたくないんだ。

「…ナルトらしくない」

またいつもみたいに。
笑って。
馬鹿やって。
それでサクラに怒られて。
それで、それで。
いつか、君の願いが。

「…」

微かに嗚咽を漏らすサイを見つめ、ナルトはその頬に空いている手を伸ばした。

「…ありがとな」

でもごめん、と。
そんな言葉、聴きたくない。
そんな笑顔、見たくない。

「…ここを逃げ出せば俺とお前は抜け忍だ」

「そんなこと僕は…!」

「俺が嫌なんだってば」

顔を上げるサイを見て、ナルトは苦笑する。

「…俺は木の葉の忍だ。最期まで忍として在らせてくれよ」

恐怖も哀しみも何もかも圧し殺して。
また、彼は笑う。

「ナルト…」

彼の代わりとでも言うように、サイの瞳から滴が滴った。



***



シカマル達は森の中を駆け抜けていた。
キバの掴んだ匂いを追って、南西へ急ぐ。

「!止まれ」

突然なにを嗅ぎ取ったのか、キバは叫んだ。
次の枝へ飛び移る体勢だったサクラは、慌てて急ブレーキをかける。
次の瞬間、前方から木々が襲ってきた。

「!」

それを紙一重で避け、サクラは地面に降り立つ。
続いてシカマルとキバも着地した。
それを横目で確認し、サクラは目前に立つ男を睨み付けた。

「ヤマト隊長…!」

「先輩は失敗したみたいだね」

やれやれとヤマトは溜息を吐く。
サクラは体の前で拳を構えた。

「そこを通してください」

「まぁ、落ち着いて」

少し話をしよう。

ヤマトはじっとシカマルを見つめた。

「ナルトから、伝言だ」



エゴである願いは
哀しみしか産まない




2011.08.16
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