闇を照らすノクターン
鼻の利くツメを先頭に、上忍達は森の中を駆け抜けていた。

「ん!」

黒丸に跨がっていたツメが、何かに反応する。
何事だといのいちが訊ねると、追っていた臭いが無数に分かれ、それぞれが別方向に向かっていると言うのだ。
いのいちは相棒同様頭のキレる少年の姿を思い浮かべた。

彼の作戦だろうことは明白だ。
彼よりも上手な男は明日の処刑の準備の為里を出ている。
自分達の参謀がいない今、彼を相手にするのは骨が折れる。
どうする、と訊ねるヒアシにシビが心配無いと答えた。

「シノに雌の臭いをつけてある」

微弱な雌の臭いを感じ取れる雄は、シビの体内にいる。

シビが指し示す場所近くの大木の枝に飛び乗った四人は、その下にあるものを見て苦々しく顔を歪めた。

「やられた」

そこにあったのは、見慣れた上着と、こちらを見上げる四人の子供の姿。

「囮か」

「正解よ、お父さん」

いのいちは溜息を吐き、ツメと共に降り立った。
少し遅れてヒアシとシビもそれに倣う。

目の前にいるのは、いの、チョウジ、シノ、ヒナタ。
残りはナルトを追ったか。

「私達」

言いながら、いのは苦無を構える。
他三人も、各々の戦闘体勢に入った。

「もう、子供じゃないの」

急に親離れしていった愛娘を、いのいちは眉尻を下げた笑顔で見つめた。



***



「子供よ」

貴方は子供。

門の前に立ち塞がる紅はシカマルを見つめ、そう呟いた。

「だってそうでしょ」

背後からキバとサクラの視線を受けるが、シカマルは答えない。
紅は目を伏せて大分膨らんだ腹を撫でた。

「この子の先生になるって言って、約束を破るの?」

亡き師と交わした約束を守るなら、今は大人しく身を引けと、紅は言う。
駄々を捏ねるのは、子供のすることだ。

「…アスマとの約束は違えません」

それに、とシカマルは続ける。

「全てを受け入れることが大人なら、九尾であるアイツを受け入れるのも大人でしょ」

「!…」

「俺は行きます」

唇を噛み締める紅に会釈して、横を通りすぎる。

「うずまきを追えば、火影にはなれないのよ…」

「いいっすよ」

めんどくさいし。

それに、と振り向いて嗚咽を漏らす紅の背に向けたのは、いつかと同じ笑顔だった。

「火影になったら、その子の師にはなれねぇっすから」

「……」

かくり、と紅は地べたに座り込む。
彼女より門の近くにいたイルカは慌てて駆けよった。
無事を確認してから顔を上げ、シカマルと向かい合う。
何となく、シカマルも姿勢を正した。

「…教師として、里を護る忍として、言うべきことではない。…だが」

イルカは深々と頭を下げる。
シカマル達には見えないその顔は、きっと泣いているのだろう。
声には嗚咽が混じっていた。

「頼む…ナルトを、救ってやってくれ…!」

一人の人間として。
彼を一番傍で見てきた者として。

「…当たり前っす」

二人に背を向け歩き出す。
仲間の気配を感じながら、門を開いた。

時刻は真夜中。
高い木の上に月が昇りつめている。



子供の頃は
大人になればなんでもできるのだと
思っていた
けど現実の自分は
彼を追いかける勇気すらない
無力で馬鹿なこどものままだ




2011.08.15
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