第2話 chapter6
ディーターミナルに一斉送信のメッセージが入った。さらに太一の携帯には、タケルからの着信が入る。太一が出ると、慌てたタケルの声が聞こえてきた。
「大変だよ、太一さん!」
タケルの話では、校内にヌメモンが現れたらしい。それも、キウイモンのときのように複数。まるでアリの行列のように群れをなし、ヌメモンたちは校内を歩き回っている。おかげで、学校中が混乱しているらしい。
「ヌメモン!?」
「おい、今他の先生から連絡が入った! 謎の生物が校内に溢れているって、デジモンか!?」
「はい、そのようです」
西島も携帯を片手に驚いた様子だ。
「先生、俺たちが何とかするから、校内の人たちを落ち着かせてくれ!」
「無茶言うな! どうしろって言うんだ!」
西島の悲鳴に似た嘆きを背中に受けながら、太一たちは駆け出した。校舎が見上げられる校門前ピロティまでやって来ると、騒ぎが一望できる。あちこちに見える緑色の生物の数に、太一は頬を引きつらせた。
「なんじゃこりゃ!?」
「多すぎるわ」
ヒカリも絶句している。ヌメモンたちの目は赤く、暴走デジモンであることは確定した。
「どうします、太一さん?!」
「とにかく、一匹一匹相手していくしかねぇだろ!」
太一は叫びながら、門の外へ向かう人波に抗って校舎内へ駈け込んだ。

◇◆◇

「いやー!!」
ヌメモンの見た目は、女子には刺激的すぎる。抱き合って座り込む女子生徒とヌメモンの間に割って入り、パルモンは腕を掲げた。
「ポイズンアイビー!」
技に貫かれたヌメモンたちは、データに戻って行く。ミミは急いで女子生徒たちへ駆け寄り、手を貸して立ち上がらせた。
「早く、今のうちに!」
「う、うん! ありがとう」
逃げる女子生徒を追従しようとするヌメモンたちを、ガブモンが爪で切り裂いた。
「ったく、どれだけいるんだ!」
ヤマトは悪態をつく。校舎内で進化するわけにはいかない。そうでなくても、破壊してしまう可能性は高いのだ。
「あれ……」
「ミミ?」
次へ向かおうとしていたミミは、足を止めた。ヌメモンたちの動きが、気になったのだ。あちこちを歩き回っているようだが、しかし一貫性があるようにも見える。
「屋上に、向かってる……?」

◇◆◇

「タイチー、全然減らないよー!」
「幾らなんでも、この数は異常だろ!」
一般人へ飛び掛かろうとするヌメモンを、太一はバットで叩き落とす。ヒカリもファイルで自衛しながら、辺りを見回した。
「どこかにゲートが開いている筈です! 今までの大きさのゲートで一度にこちらに来たにしては、多すぎる!」
「まだ開いたままで、垂れ流されているってことか!」
同時通話にしたままの携帯を耳へ当て、太一は叫んだ。ヤマトはミミとレオモンと、タケルは丈と、空は芽心と一緒にいることは分かっている。
「ヤマト、タケル、空!」
「ああ、聞いてた!」
「分かったわ!」

「こっちも了解だよ!」
太一との連絡を切り、タケルは丈へ声をかけた。
「丈さん、まだゲートが……」
「ゲートだ」
「え」
「ゲートを見つけた!」
丈は言うや否や、駆け出す。タケルはハッと窓の外を見やった。グラウンドの上空に、赤黒いゲートが浮かんでいたのだ。

◇◆◇

中庭に飛び出した空と芽心は、一般人の避難を誘導しながら、ヌメモンたちと戦っていた。
「空、外なら進化できるわ!」
「ダメよ、ピヨモン、まだ大勢人がいるわ!」
バードラモンの攻撃は炎によるものだ。こんなところで放てば、巻き込まれてしまう。ピヨモンは「そんなぁ」とぼやいて、仕方なく成長期のままで羽ばたいた。
芽心はグッと両手でデジヴァイスを握りしめた。
「メイコ!」
メイクーモンが、芽心を見上げる。その真っすぐな瞳へ、芽心は力強く頷いた。
「お願い、メイちゃん!」
「おう、任せろ!!」
芽心の言葉に嬉しそうに頷き、メイクーモンはヌメモンたちの方へ飛び掛かった。途端、メイクーモンの身体が輝きだす。同時に芽心の手の中から光が溢れた。
「まさか、これが進化……!」
「メイクーモン進化――」
光の殻を破って、メイクーモンが新たな姿を見せる。
「メイクラックモン!」
襟から伸びる二本の触手が、ヌメモンたちを投げ飛ばしていく。身軽に飛び上がって鋭い爪を光らせる姿に、芽心は目を奪われた。
「あの姿……まさか、完全体?」
「じゃあ、メイクーモンって成熟期だったの?」
あっという間に中庭のヌメモンたちを制圧していくメイクラックモンの姿に、空とピヨモンは顔を見合わせた。

◇◆◇

丈は久しぶりに全力疾走をした。グラウンドには既に誰もおらず、輪郭を揺らすゲートだけが浮かんでいる。ポトンポトンと、一定間隔でヌメモンが落ちている。まるで、閉め切れていない蛇口のようだ。
爛々とした瞳のヌメモンたちの前に、ゴマモンとレオモンの姿があった。どうやら先にたどり着いていたらしい。
丈は乾いた口を目一杯開き、喉を振り絞った。
「ゴマモーン!!」
「ジョー!」
ゴマモンたちも気付き、丈を見て顔を綻ばせる。こちらへ駆け寄るゴマモンへ、丈は手を伸ばした。
「来たぞ、ゴマモン!」
こちらへ向かって駆けてくるゴマモンとレオモン。腕の中へ飛び込むゴマモンに、丈は思わず笑みをこぼした。
「行こう、ゴマモン!」
「おう! ゴマモン進化ぁ――イッカクモン!」
どしんと音を立てて着地し、イッカクモンは角を発射した。
「ハープンバルカン!」
角による爆撃は、ヌメモンたちに直撃した。辺りに砂煙が立ち込める。そのとき、砂煙を吹き飛ばすように光の柱が立ち上った。レオモンは目を見開く。
「まさか……進化するのか!」
砂煙が晴れたとき、そこに立っていたのは、黄色の熊型デジモン――もんざえモンだった。それも、五体。
「丈」
「ああ、そうだな――こんなところで立ち止まっていたら、何も敵わないんだ!」
イッカクモンに頷き、丈はデジヴァイスを握りしめる。灰色の光が、手の中からあふれた。
「イッカクモン超進化――ズドモン!」
ズドモンはハンマーを地面に打ち付けた。
「ハンマースパーク!」
衝撃波により、もんざえモンたちが吹き飛ぶ。ズドモンはさらにハンマーを振り回し、もんざえモンたちを薙ぎ払っていった。
迷いすら打ち払うようなその動きに、レオモンは口元を緩めた。
ふと、ズドモンの身体が微かに光っていることに気づく。丈は気づいていないようだが、デジヴァイスも脈打っていた。
「まさか、まだ進化するのか……?」

◇◆◇

ミミはひたすら、パルモンと共に屋上へ向かって走っていた。
「良いの? ミミ」
パルモンが訊ねる。先ほどクラスメイトが、例の三人の女子生徒が屋上へ行ったままだと言っていたのを聞いたのだ。パルモンはミミを心配していた。
しかしミミは力強く首を振る。
「確かに、仲良くなるのが難しい人たちもいるかもしれない……だからって、助けない理由にはならないわ」
「……やっぱり、ミミはミミね」
ふわり、とパルモンの身体が光に包まれる。ミミはニッコリと微笑んだ。

――パルモン、ワープ進化――

「私、そんなミミが大好きよ」

――リリモン!

「ありがと、リリモン」
ミミは、勢いよく屋上へ続く扉を開いた。
「た、太刀川さん……」
三人は屋上の隅で互いに身を寄せ合って縮こまっていた。彼女たちの向いには、ヌメモンの塊と、見たことのないデジモンが羽を広げていた。
「何、あれ……?」
銀の身体と金の翼を持つヌメモン――プラチナヌメモンは、ミミたちを見つけて振り向いた。
「早くこっちへ……!」
ミミは三人の方へ駆け寄った。リリモンは彼女たちを守るように、ヌメモンたちと対峙する。
グググ、とヌメモンたちが集まり、巨大なヌメモンとなる。それはプラチナヌメモンを中心に固まって行き、巨大なプラチナヌメモンと化した。その大きさは入り口を塞いでしまうほど。
ミミは三人をデジモンから隠すように立って、睨みつけた。
「リリモン!」
「フラウカノン!」
リリモンの放った光線は、しかしプラチナヌメモンの身体に弾かれてしまう。クッと顔を顰めながらも、リリモンはフラウカノンを連射した。
「太刀川さん……どうして……」
「それは何で助けるかってこと? それともデジモンについて?」
思いのほか固い声が出てしまった。ミミはハッとして振り返り、怯えたような気まずそうな顔をして俯く女子生徒たちを見下ろす。意地悪な質問を返してしまったと、ミミは反省した。
「……誰だって傷ついたら、悲しいもの。私は、誰にも傷ついたり、泣いたりしてほしくない――それだけ」
女子生徒たちは涙の浮かぶ目を丸くして、ミミを見上げる。ミミはくしゃりと微笑んだ。
スカートのポケットに入れたままにしていたデジヴァイスが、緑の光を放つ。それに呼応して、リリモンの身体が光に包まれた。

「リリモン、究極進化――ロゼモン!」

薔薇の化身のような姿に、ミミたちの目が奪われる。ロゼモンは棘のついた蔦を振り回した。
「ロゼモン……」
蝶のように舞い、蜂のように刺す。ロゼモンの戦い方は、まさにそれだった。
鞭で拘束したプラチナヌメモンを持ち上げ、屋上の床に叩きつける。目を回したところを、ロゼモンは鋭い鞭の先で貫いた。
「ローゼスレイピア」
スッと鞭を抜き、手の内まで引き戻す。バラ、とプラチナヌメモンたちはデータに戻って行った。
「綺麗……」
怯えていた女子生徒たちは思わず呟く。ロゼモンはニコリと笑って、ミミの方へ手を伸ばした。
「ありがとう、ロゼモン」
頬に触れるパートナーの手に自分の手を重ね、ミミは微笑んだ。

◇◆◇

「ズドモン、究極進化――ヴァイクモン」
丈は目を丸くし、ゴクリと唾を飲みこんだ。
「まさか、究極体……?!」
驚いて言葉を失う丈の前で、ヴァイクモンは背負ったモーニングスターを振り回した。力強く、空間さえ揺れるような攻撃に、丈は足へ力を入れて踏みしめる。
「アークティックブリザード!」
モーニングスターによって一か所に集められたもんざえモンとヌメモンたちが、一気に凍結した。ヴァイクモンはモーニングスターを叩きつけ、それを砕いた。
「すごい……」
さらにヴァイクモンはモーニングスターを振り回し、ゲートへ向けて放った。モーニングスターの鉄球がゲートを薙ぎ払い、空間を削るように消し去っていく。
「ヴァイクモンのモーニングスター『ミョルニル』は空間そのものを歪めるほどの威力を持つと聞くが……これほどとは」
目の当たりにした威力に感心し、レオモンは吐息を漏らす。
「ジョー!」
力を使い果たしたプカモンが、ヨロヨロとしながら丈へ向かって手を伸ばす。丈は呼ばれるままに駆け寄り、随分小さな身体を抱きしめた。
「……お疲れさま、プカモン」
「おうよ」
二人を見守るレオモンは、自身の身体に走った痛みに、気づかないふりをした。

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