カノンを追いかけて
サイは苦々しく顔を歪め、しかし素直に頭を下げると、瞬身で姿を消した。
それを確認してから、カカシはしゃがむ体勢から立ち上がる。

「どっか行く気?」

「…ナルトを、助けに」

「それは…黙認出来ないね」

「なんで…!」

カカシ先生、と叫んだのはサクラだ。
しかしそこに、先程までの悲痛な面持ちはない。
どこまでも澄んだ真剣な双眸が、カカシを映している。

「『仲間を大切にしない奴はクズ』なんでしょ」

その言葉にカカシは感慨深げに目を眇た。

「嬉しいな、覚えててくれたんだ」

「師の教えだもの」

「師の教え…ね」

じゃあ、と呟いてカカシはホルダーから別の苦無を取り出した。
くるくると指で回し、弄ぶ。

「俺もミナト先生の願いを叶える為に、頑張りますか」

瞬間、カカシの姿は消えた。
慌てて身構えるサクラの背後で静かに空が裂ける。



ぱし、



すぐ近くで軽い音がしたが、サクラに痛みはない。
突如として現れた気配に振り向くと、シカマルの影によって苦無を持つ手を止められるカカシの姿があった。

「シカマル…!」

ありがとうと続く言葉を、サクラは思わず飲み込んだ。
印を組んだシカマルの表情が、怒りに満ちていたから。

「どいつもこいつも四代目のことばかり…」

ぎり、と噛み締めた奥歯が軋む。

「なんで…なんで誰もナルトを見ない!」

ナルトを解放してやれと。
シカクは言った。
けれど彼の本心は親友のことばかり。
カカシだって。
彼らはナルトを通して別の人間を視ている。
今は亡き、大切な人を。

「そんな奴らの為に、ナルトは殺させない!」

「お前に何が解る!」

普段の飄々とした雰囲気からは想像も出来ない程声を荒げ、カカシはシカマルを睨み付けた。
噛みつくように睨み返すシカマルの前に、ネジが手を翳しながら進み出る。

「落ち着け。らしくないぞ、シカマル」

同意しながら、テンテンも隣に並んで背中の巻物を開いた。

「早く行きな」

「ここは僕達に任せてください」

リーが白い歯を煌めかせ、親指を立てて見せる。

カカシを取り囲む三人にシカマルは一瞬呆気にとられるが直ぐに強く頷いた。

「…ありがとう」

短い言葉と共に、ガイ班を除いた中忍達は姿を消す。

シカマルが去ったことで自由になったカカシは、逃がしまいと身構える三人を見て溜息を吐いた。

「なんでこうなっちゃうかね」

「少なくとも貴方よりはナルトを仲間だと思っていますから」

答えて、ネジは白眼を発動した。



***



サイは南西だと言いかけた。
ならその方向へ向かい、キバにナルトの臭いを探してもらえばいい。
筈だった。
まさかこんなにも上忍達による妨害があるとは思わなかったのだ。
まだ里内の森にいたシカマル達は大木の影に隠れ、苦々しく顔を歪めた。
妨害してくる上忍達は彼らの親だったのである。

既に擦り傷を幾つか負ったメンバーを見渡し、シカマルは唇を噛み締めた。

「囮役と追跡役、二手に別れるぞ」

周囲の気配を気にしながら、シカマルは小声で言う。

この場合必要なのは小回りを利かせることではない。
二手に別れても両方捕まる可能性の方が高いからだ。
相手は親とは言え上忍。
実力は身に染みている。
相手の戦力を少しでも留めれば、ナルトに辿り着く可能性は僅だが上がる。

「三四に分かれよう」

追跡三、囮四が理想的である。

キバが追跡役なのは確定。
囮役には全方位に眼の利くヒナタが必要だ。
サクラはナルトを追いたいと言った。
いのは残ると言い、ならばとチョウジも囮役に名乗り出た。

「俺も囮になる」

シカマルの言葉に、七人は思わず彼を見やった。

「元々俺の術は足止め用だしな」

サクラの不安気な視線を振り払うようにシカマルは頭を掻く。

「だから、」

「お前は追跡役だ」

それまで黙っていたシノが、そう言って立ち上がった。
見上げるシカマルの瞳を映すサングラスから表情は読み取れない。
驚くシカマルを見つめ、シノは何故ならと続ける。

「ナルトにはお前が必要だからだ」

俺が囮だと呟いて、シノは背を向けた。
そうよ、とサクラは叫んでシカマルの肩を掴む。

「一番ナルトを想ってるのはシカマルじゃない!」

先程カカシへ向けて叫んでいた言葉が、何よりの証拠だ。

シカマルはサクラの顔を見つめ、シノの背中に視線を移した。
それを少し下げれば、チョウジ達の笑顔が見える。

「…ありがとう」

本日二度目の礼を呟き、シカマルは眉間に皺を寄せて微笑んだ。

影で小さく握られたその拳に、気がついたのはチョウジだけだった。



そうしてまた
僕達は大切なことを見逃し
重大な決断を迫られる




2011.08.13
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