音の外れたシンフォニー
「…やっぱり暗部も絡んでたのか」

「処刑の執行とそれを邪魔する反乱分子の排除。それが火の国政府から下された任務だ」

淡々と述べるサイの瞳は何時かのように空虚で、声色も何処か寒々しい。

緊張が走る中、シカマルはゆっくりと中庭に降りた。
サイの、水平に伸ばした刀の間合いに入って、喉元に触れるそれに構わず彼の正面に立つ。
僅にサイの肩が動いた。

「…なんのつもり?」

「俺は、ナルトを助けに行く」

サイの目が大きく開かれ、唇に犬歯が食い込む。

「なんで…なんで解らない…っ!」

らしくない程声を荒げ、サイはシカマルを睨み付ける。
思わず、サクラも庭に降り立った。

「あなたも救いたいと思ってるんでしょ、サイ!」

その態度を見れば解る。

笑顔を、想い出を、書きたかった最後のページを。
思い出させてくれたのは、彼だから。

サイは思わず顔を歪めた。

「…笑顔は、幸せなものだと思ってた」

刀を降ろして、俯いて。
サイは言葉を紡ぐ。

幸せだから、笑顔になるのだと思っていた。
あの時まで。

「あの顔を見てないから、そんなこと言えるんだ…!」

恐怖も覚悟も全て隠して、儚げに微笑むその意味に。
気づいてしまったから。
彼の想いを無駄にしたくないと。
思ってしまったから。

「俺も見た」

震えるサイの肩が、ピクリと飛び上がる。
驚いて顔を上げるサイの瞳を真っ直ぐ見返して、シカマルは繰り返した。

「俺も、見たよ」

何処か哀しそうに、寂しそうに。
目を細めて頬を掻く仕草。
その笑顔に。
あの言葉の意味に。

「けど、気づけなかった」

伸ばすことの出来なかった手に爪を立てても。
心の中で悔やんでも。
状況は変わらない。

「今やっと、あいつに届く方法を見つけたんだ」

だから邪魔するな、と。
睨み付ければ、サイは僅にたじろく。

「…ナルトを連れ戻しても、居場所が残っているとは限らない」

処刑は政府から下された命令だ。
云わばそれは火の国の意思。
そんな所に、彼の居場所なんて。

「あるさ」

ほら、とシカマルが放った何かを、サイは反射的に受け止めた。
掌に収まった包紙の裂目から覗くのは、砂で形作られた狐。

「これは…」

「我愛羅からナルトへ、だとさ」

それだけじゃない、とシカマルは自身の胸を親指で指し示す。

「俺達がナルトの居場所だ」

シカマルの言葉を受けて、サクラ達が強く頷く。
サイは驚きで見開いた瞳を揺らして、狐の人形を胸元で握り締めた。

唇を噛み締め嗚咽を堪えて、霞む視界を拳で拭う。
もう一度シカマルを見据えたサイは、何かを吹っ切れたようだとサクラは思った。

「…奈良上忍は政府にナルト処刑に関しての条件を二つ出してる」

突然のサイの言葉に周囲が驚く中、シカマルはやはりな、と目を細めた。
あの父親がただで転ぶ筈がない。

「一つはナルトを英雄のまま殺すこと」

シカクはナルト処刑の事実を伏せ、里人には任務で死んだと伝えるよう頼んだ。
英雄処刑の理由付けに悩んでいた上層部は、二つ返事でそれを承諾した。
あの偽長期任務はそれだ。
シカクの目的は恐らく、親友の願いを叶える為。

「もう一つは、」

サイはシカマルの瞳を見据えた。
シカマルの方がその気迫に圧されてしまう程、強く。

「ナルト処刑の報を息子達にだけは伝えさせて欲しい、と。伝えるまで処刑の施行は待ってくれ、とも」

(親父…)

不意に、あの小憎たらしい笑顔が浮かんだ。
それに負けないくらい意地の悪い笑みを浮かべ、シカマルは拳を握る。

(ありがとよ)

何処までが彼の策略かなんて関係ない。
釈迦の手の上で有り難く踊らせてもらうとしよう。

「処刑は明日の正午。場所はここから南西の方角の―――!」

サイは言葉を止めると地を蹴って屋根に飛び乗った。
一瞬遅れて、彼の居た地面に苦無が突き刺さる。

「ダメでしょ、サイ」

キバ達が一斉に身構える中、塀の上に人影が現れた。
その苦無を投げたであろう男の姿に、シカマルは苦々しい顔で舌打ちし、サクラは只只目を見開いて驚くばかり。

「…カカシ、先生…」

「皆勢揃いで何か悪巧みかい?」

悪戯子を諭すようににこやかな笑顔でカカシはシカマル達を見下ろしていた。



仲間を
誰も殺させはしないと
そう言った人は彼だったのに




2011.08.12
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -