13:いつもいっしょ
――俺たちは信じているんだ。

薄く雲がかかる青空を、綱吉はボケッと見上げる。
休日の午前中。雨上がりのため、道の所々には水たまりの姿がある。電信柱の近くに立つ綱吉の足元にも、空を映す水たまりがあった。爪先でパシャと水面を蹴る。ユラと景色が揺れた。
少し視線を動かすと、コンクリートの道とは違うぬかるんだ空き地がある。そこにも点々と水たまりができていて、いくつもの斑模様を作っていた。
空を丸く切り取って地面に貼り付けたような風景。そんな風景を見ると、ふと耳の奥で蘇る言葉がある。
「……俺、やっぱり夢見がちなのかなぁ」
「まあそうだろうな」
「ひ!」
突然横から声をかけられ、綱吉は肩を飛び上がらせた。首を回すと、塀の上で雨の妖精のような恰好をしたリボーンがキラキラと杖を回していた。
「リボーン!」
「京子のときから度々妄想重ねていた男が、何を今さら。それにお前みたいなのは夢想家、ロマンチストっていうんだ」
「うっさいな!」
憧れの少女と二人きりで過ごす休日やウェディングドレスを着る姿を想像していた日々を思い出し、綱吉の顔からは火がでそうだった。唸りながら頭を抱えて蹲る綱吉の項を見下ろし、リボーンはため息を吐く。
「ま、お前たちはそれくらいがちょうどいーんじゃねぇか?」
「え?」
「お前らの先祖も、十分夢想家だからな。あんな方々に禍根を残しそうな――実際残した別れ方をしておいて、『あんなこと』を信じたんだ」
顔を上げた綱吉は、歯に衣着せぬリボーンの言葉にヒクリと頬を引きつらせた。
「お前、かなり酷いこと言ってないか?」
「俺は九代目に雇われているだけであって、初代を崇めるほどボンゴレには染まってねぇからな」
「な!」
カクン、と綱吉は口を開いてショックを受けたような表情。突き放されたと思っているのかもしれないが、その逆であることはリボーン含め彼以外の周囲がよく分かっていることだ。察しの悪い教え子の惚けた顔を見やり、リボーンはフッと鼻を鳴らす。
「逆を言えば、それだけお前たち子孫に希望を抱いていたとも言える」
「!」
「お前たちの今の姿は、初代たちの希望そのものだったんだろうな」
ニヤリ、と妖精姿のリボーンは微笑んで「じゃあな」と姿を消す。まるで糸で吊り上げられたような動き方に、どこから引っ張られたのだろうと慌てて綱吉は辺りを見回した。しかしそれらしき協力者の姿は見えない。さすがリボーンといったところか。
「ていうか、アイツ何しに来たんだ……」
立ち上がって、綱吉はため息を吐く。
ふと、背後から名前を呼ばれた。
――俺たちの意志を継ぐ真の後継者が現れて、
振り返ると、名前のように燃え上がる髪を揺らしながらこちらへ手を振る待ち人の姿が見える。綱吉も手を振り返すと、ヘラリと笑った彼は水たまりに足をとられてべしゃりと転んだ。
「ええ!?」
「ご、ごめん……」
慌てて駆け寄ると、コンクリートに思い切りぶつけたのか赤くなった鼻からタラリと血がこぼれる。
「血、血!」
「え、ああ」
手で鼻を拭い、そこについた赤をぼんやりと見やる。慣れていることとはいえ、そんなどこか人ごとのような態度に、綱吉の肩から力が抜けた。
「ふ、」
「?」
「あ、ごめん。転んだこととか、鼻血を出したことを笑ったわけじゃなくて」
思わず口から零れた音を弁明するように、綱吉は手を振る。それからポケットに入れていたティッシュを彼へ差し出した。
「一緒にいられる今が、何か嬉しいなって」
綱吉から受け取ったティッシュで鼻を抑えた彼も、「そうだね」と小さな笑みを口元へ浮かべる。
ふと、耳の奥で蘇る言葉。それはきっと、こんなときにまた繰り返されるのだ。
――再び笑い合える日がくると。
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