星夜に煌めくセレナーデ
手の中でガラス玉同士がぶつかり合い、涼やかな音を立てる。

無意識に首飾りを弄りながら、シカマルは自宅の縁側に腰を下ろし、煙草を吹かしていた。
恩師の仇討ち以来、久々に吸う煙は苦く、脂が目に染みる。
けれど一時訪れるこの清涼感は嫌いじゃない。
ごちゃごちゃの脳内を整理できるから。

どん、と音がした。
ふざけるな、と背後の室内ではキバが叫んでいる。
ヒナタの嗚咽と、彼らを宥めるシノの声が聞こえた。

「落ち着け、キバ」

「これが落ち着いていられるか!」

くそ、と何度も何度も壁に拳を当てる。
やり場のない怒りで狂ってしまいそうだ。

「…キバ、いい加減にしなさいよ」

業を煮やしたいのが苛立った口調で言う。

「辛いのは皆同じ」

「簡単に割りきれられるかよ!」

いのの言葉を遮る程、強く。
壁にぶつけた拳は、赤く擦れて熱を持った。

「ダチが殺されたんだぞ!理不尽な大人の都合で!」

いのは口をつぐんだ。

大人になったと、思っていた。
もう子供じゃないと、驕っていた。
けれど今の自分は大人の事情を受け入れられず、だからと言って彼を助ける力もない。
無力なだだの子供だ。
それが一番腹立たしい。

「くそ…っ」

壁に額を打ち付け、キバはずるずると座り込む。
ヒナタの嗚咽が、心なしか激しくなった。

日は傾き、空を濃紺と紅の二色に染め上げる。
瞬き始める星を見上げていたシカマルの隣に、チョウジが腰を下ろした。

「シカマル?」

「なんかひっかかる」

後ろに倒れ込みながらシカマルは呟いた。
腕を枕にして寝転ぶ彼を見て、チョウジは不思議そうに首を傾ぐ。

「…あの言葉」

頭の中でこびりつく二つの言葉。
逸る気持ちを必死に落ち着かせて、その意味を探る。



『願いを叶えるつもりだ』

『最期まで英雄にしてやろうや』



「!」

ガバリ、とシカマルは勢い良く体を起こした。
それに驚いて声をかけてくるチョウジの瞳を見据え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「…ナルトは、まだ生きている」

ざわ、とその言葉にキバ達も反応した。

「…どういうことだ」

混乱する一同を代表してネジが問う。
シカマルは縁側から立ち上がって部屋に入ると、先程のシカクの言葉を繰り返した。

「親父は一度も、処刑の施行を過去の事実として述べてはいない」

あ、といのは小さく声をあげた。
確かにシカクは一度も『処刑された』とは言っていない。

「…つまり」

ごくり、と唾を飲みながらキバが呟く。
それを首肯してシカマルは細く笑んだ。

「ああ…上手くすれば、ナルトを救えるかもしれない」

ふ、と場の緊張が解かれる。
泣き出す者もいれば、安堵に胸を撫で下ろす者もいる。

そんな中、シカマルは笑みを浮かべ、首飾りを胸に押し当てた。

(…ナルト、今行く)

再び前を向いたシカマルの瞳は真剣そのもので、チョウジは思わず柔らかい笑みを浮かべた。

「キバ、ナルトの匂い追えるか?」

「任せろ!」

「ついてくる奴は急いで準備して武器を俺に見せろ。戦力を把握しておきたい」

テキパキと指示を出す親友は、いつもの彼だ。
今も昔も変わらない。
頼もしい、自分の中の英雄。

「チョウジ」

準備が出来たメンバーがシカマルの周りに集まっている。
大きく頷くと、自分のポーチを手に駆け寄った。



とん、



その後ろ、開け放たれた障子の向こう側に、音も無く着地した黒装束。
見知った顔に、シカマルはやっときたとばかり声をかけた。

「よお、サイ」

無言のまま、サイは刀を抜く。
キバ達の間に僅な緊張が走った。

「ナルトを追うのは止めた方がいい」

きっぱりとした言葉。
伸ばされた剣先は真っ直ぐ此方を向いていて。
行かせないという意思を持つ瞳が、シカマルを捕らえる。

その暗い瞳に、サクラは小さく息を飲んだ。



願いはエゴでしかない
其れ故人は苦しみ哀しみ
先にある絶望を知るのだ
またエゴであるからこそ人は
願うことを止めない




2011.08.07
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