Xel Mes(]T)
やっと手を取り合った二人を見て、クロエたちはホッと安堵の息を吐いた。和やかな雰囲気になりつつある中、ワルターは小さな殺気に気づき、咄嗟に動いた。
「ぐあ!」
「! ワルター!」
セネルたちを庇うように立ったワルターは、肩に光球を受けて膝をつく。慌ててウィルたちは戦闘態勢をとり、光球の出所を目で探した。
「全く、君には失望したぞ、ワルター」
「マウリッツ……」
「なんだ、そのテルクェスは。片翼しかないとは、その陸の民にもぎ取られたか。漆黒の翼が情けない」
「ワルターさん……」
ワルターは肩を抑え、キッとマウリッツを睨んだ。マウリッツはその睨みを軽蔑するような視線を向け、フンと鼻を鳴らす。
「テルクェスをもぎ取るとは、陸の民は残酷だ。……メルネスよ、騙されるな! 陸の民は、そのセネルという男は、お前を騙していたのだ!」
「まさか……マウリッツ」
マウリッツの言葉に心当たりはある。ヴァーツラフ軍にセネルが属していたことを、彼はどこかで知ったのだ。それを今ここで暴露されてしまえば、折角落ち着いたシャーリィの心がまた乱れてしまう。ジェイはそう判断し、マウリッツを止めようと彼へ向けて小刀を放った。しかしそれは、マウリッツのテルクェスによって叩き落とされた。
「その男は、ワルターもステラも誑かし、我ら水の民を陥れたのだ!」
「っステラは関係ない! ワルターも! 二人を悪く言うな!」
セネルは思わず声を荒げた。一人事情を知らぬシャーリィは戸惑った顔でセネルの裾を引っ張る。
「お兄ちゃん、どういうこと……?」
「シャーリィ、その、」
「そいつはヴァーツラフ軍の兵士なのだよ、メルネス!」
シャーリィの瞳に絶望の色が浮かんだ。セネルは慌てて彼女の肩を掴み、話を聞いてほしいと視線を合わせた。
「シャーリィ、俺は、」
「耳を傾けるな、メルネス!」
「っ!」
セネルは唇を噛んだ。彼は、マウリッツを、水の民のこの男を、憎いと思って『しまった』。
「――黙れ!」
バチン、とワルターは以前も聞いた花火の弾ける音を耳で拾い、目を見張った。ワルターとクロエたちの視線の先で、マウリッツの身体がぐらりと傾く。口から血を垂らした彼は、背負っていたテルクェスを失っていた。あの時と同じである。ワルターのときより威力が上がっているようだが、間違いなくセネルの力だ。
「……なに、これ」
シャーリィは茫然としたまま、隣で同じように驚いているセネルを見やる。
「お兄ちゃんが、やったの……?」
「分から、ない……俺は、」
セネルも困惑し、仄かに光始める己の手へ目を落とした。シャーリィは床に手をついたまま、彼の視線を追う。
「テルクェスを消した……お兄ちゃんが……? ヴァーツラフ軍で……?」
「シャーリィ……」
「ワルターさんのテルクェスも、お兄ちゃんが……?」
ワルターは口を噤み、目を伏せた。シャーリィには、それで十分だったのだ。彼女の瞳が溶けるように潤み、唇から渇いた声が漏れる。
「あ、あははは……そっか……お兄ちゃんが、『そう』だったんだ。……これが、私たちが分かり合えない、通じ合えない理由……」
きゅ、と床に立てた指を丸める。シャーリィの悲痛な声は、ずっと深くクロエたちの心を抉った。
「分かり合える筈、なかったんだよね……――どうして、出会ってしまったんだろう」
出逢わなければ、こんな想い、抱く必要はなかった。
シャーリィは俯いて、ポツリと呟いた。セネルが声をかけようとしたとき、眩い金の光が現れ、視界を焼いた。光が収まるとそこにシャーリィの姿はなかった。
「シャーリィはどこへ行ったんだ?」
「ねぇ、ちょっとあれ!」
ノーマが外の異変に気付き、指をさす。クロエたちは慌てて外を見やった。先ほどまではなかった大きな建造物が海から這い出すところだった。
「あれが、光跡翼……?」
とうとう復活してしまった。ウィルは目を見張り、ギュッと拳を握った。
「セネル!」
室内で慌てたようなワルターの声がして、ジェイたちは振り返った。ワルターは膝を折って座り込んだまま、立ち上がったセネルを見上げていた。空を見上げるように佇むセネルの髪はユラユラと風に揺れ、月明かりのような銀の光を纏っている。さらにその背中に赤と銀が混ざったような光の翼が生え始めていた。
「まさか……」
このタイミングでセネルの保有する力が完全に目覚めたと言うのか。ジェイはどうするべきかと必死に頭を回転させた。しかし打開策など出る間もなく、光の翼を携えたセネルは、ゆっくりとジェイたちの方を振り返る。深い海の色をしていた瞳が、赤い光を湛えていた。
「クーリッジ……?」
クロエが思わず名を呼ぶと、反応したらしいセネルが「否」と固い声で返事をした。
「我はゼルメス。陸の民の繁栄のため、水の民を滅ぼす者」
困難は一つ現れれば続くものだ。そんなこと、身をもって知りたくなかったと、ノーマは思わず口を押えた。
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