手向けのバラード
「親父…」

「サクラも入ってこい」

先程の言葉の意味を訊ねようとしたシカマルを遮り、シカクは開いたままの扉に声をかけた。
言われた通り姿を現したサクラは、後手で扉を閉めた。
それを確認してからシカクは、いの、チョウジ、シカマルの順に視線を巡らす。
心臓の鼓動が聴こえそうな程の静寂の中、シカクはゆっくりと息を吐いた。

「…8日前、火の国政府からうずまきナルトの処刑が宣告された」

「!」

シカマルは思わず息を飲んだ。

「その翌日、本人の了承も得て、木の葉の上層部に正式な命令として発表された」

頭が混乱する。
必死に落ち着こうと浅い呼吸を繰り返すが、息苦しさは増すばかり。

「更にその翌日…うずまきナルトの身柄は、火の国国境沿いの牢獄に移された」

今度こそ、息が止まるかと思った。
シカクの言った日数。
逆算すれば、処刑が宣告された日は。



―――好き



彼が、ナルトが、告白してきた日だ。
先程シカクは『本人の了承を得て』と言った。
つまり、ナルトがあの時その事実を知っていてもおかしくないわけで。
それはつまり。

(あの、言葉の意味は…)

あの、悲しそうな笑顔の意味は。

「なんで、なんでナルトが…!」

チョウジの言葉に、同意するようにしていの達がシカクに食って掛かる。

「そうよ!」

「処刑なんて!」

「…九尾の妖狐のことは、知っているだろう」

ピタリ、と。
急に三人は黙り込んだ。
途端に部屋に流れる空気は、やはりそうかという、諦めに似た嘆き色。
綱手の、嗚咽をやり過ごす為に吐息の音が、大きく響いた。

「あれは諸刃の剣だ。火の国政府は、これ以上危険因子を放置できないと判断した」

「…で」

ギラリとした、音の付きそうな眼差しで、シカマルはシカクを見上げる。

「…あんたは、それを飲んだのか」

「シカマル…!」

綱手が何か言いたげに立ち上がったが、シカクに視線で制され、唇を噛み締めて項垂れた。

「…妖狐襲来の日」

しん、と静まり返る部屋に響くシカクの声。
シカマルは訝しげに父親を見やった。

「封印の宿主に選ばれたのは産まれたばかりの赤ん坊…ナルトだった」

その事実は箝口令の下、ナルト本人も含めた里の子供達に秘されることとなった。
先の戦いでそれも無駄になり、里中の人間の知るところとなったのだけれど。

「そして封印したのは四代目火影波風ミナト…ナルトの実の父親だ」

「!!」

それは初耳だ。
サクラは驚いて口を手で覆った。
正面に立つカカシが、小さく拳を握りしめたことに気づかずに。

「そんな…」

「二人が親子だということは上層部でも極僅かの人間しか知らない」

「…あんたはなんで知ってんだ」

当時から上忍班長だっといえど、ここまで隠されていた事実をその程度の役職の人間が知っている筈がない。
シカマルの問いに、シカクは表情を和らげた。
それが自分の知る父親のそれとは違っていて、シカマルは酷く居心地が悪かった。

「…波風ミナトは、俺の親友だ」

「!」

「上忍班長になったのも、元々奴の補佐役としてだ」

「…っあんたは、親友の息子を見殺しにしたのか…!」

それは違う、とシカクは静かに言った。
何が違う、とシカマルは怒鳴り返した。
彼の処刑を止められなかったではないか。
それだけではない。
幼い頃から虐げられてきた彼に、何故手を差しのべなかった。

シカクはうっすら水の膜が張る瞳で睨み付けてくる倅を見つめ、そこに嘗ての己の姿を見た気がして、自嘲気味に微笑んだ。

「ミナトは息子が英雄になるよう、願いをこめて九尾を封印した」

「…!」

「俺は、親友の最期の願いを叶るつもりだ」

「息子の死が、親の望みだとでも言うのか!」

ぎり、と掌に爪が食い込む。
血が滲んだが、構わないと思えた。
叫ぶシカマルとは対照的に、シカクはあくまでも冷静に首を横に振った。

「…ナルトは、立派な英雄になった」

その言葉にはっとして、シカマルは口を閉ざした。
シカクの言葉の意味が解らないいのだが、思わず唾を飲み下した。
彼女だけでなくサクラやチョウジも、漠然とした恐怖だけは感じていた。

彼らの視線を受け、シカクは俯く息子の名を呼ぶ。
悟い彼は予想できたのだろう。
聞きたくないとばかりに目を閉じて、唇を噛み締めていた。

「ナルトを、最期まで英雄にしてやろうや」

何時また迫害されるやも知れない。
そうなる前に九尾から解放してやろう、と。
暗にシカクは言っている。

死を以てして、解放を―――

ふざけるなと叫んだ。
嗚咽の所為で、言葉にならなかったけど。



死とは解放である
生の義務からの
生に於ける柵からの
死とは存在の消滅である
死して尚生きる者は
英雄のみである




2011.07.31
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