レクイエムは止まらない
「シカクおじさまが…?」

「ああ。何か知ってる風だった」

シカマルの言葉に、部屋の主であるいのは、まだ目を腫らすサクラに寄り添い、顎に手を当てる。

「なら、うちのお父さんも知ってそうね」

「ああ。チョウジの親父さんもな。というか名家旧家は知っていると考えていい」

シカマルの言葉に、部屋に集まっていた同期達は小さく息を飲んだ。

「上忍達が関係してるなら、火影様は言わずもがなだな」

「ちょっと待てよ。ナルトの奴、そんなにヤバイことになってんのか?」

ネジの分析に、キバが慌てて反論する。

ナルトは今や里の英雄だ。
その彼に、一番恩恵を受けた里が何かをしている。
表沙汰になるのを、避けてまで。
事態が容易なものでないことは、赤子の目から見ても明らか。

「あいつ、何したんだ?」

「若しくはされた、だろう」

怪訝そうに見やるキバを、サングラス越しに見つめ返し、シノは何故なら、と言葉を続ける。

「あいつの腹の中には九尾がいるからな」

一瞬の沈黙。
キバはけど、と力無く呟いた。

「…んなの、今更だろ」

「ああ。だが上の奴等が考えそうなことだろ」

英雄として実力をつけてきたナルト。
九尾に怯える大人達にとっては、受け入れ難い事実だ。

「…ナルトくんは…」

震える声で、ヒナタが呟く。
自然と、皆の視線が集まった。

「殺され、ちゃうの…?」

ポロポロと頬を伝う涙に、掠れた声。
つられて目頭が熱くなり、キバは歯を食い縛って視線を逸らした。
ネジが黙って、泣き出すヒナタの目元を拭った。

「…私、綱手様に聞いてくる」

それまで沈黙していたサクラは突然立ち上がると、足早に部屋を出て行こうとする。
咄嗟に腕を掴み、シカマルは彼女を止めた。

「落ち着け。正攻法でいってもダメだ」

「でも…!」

焦るサクラを宥めながら、シカマルは部屋に揃った同期達を見渡した。

「まずは独自で調べる。問い詰めるのはそれからだ」

「しかし、どうやって」

「自分達の親なら、見張るのは簡単だろ?」

その為に呼んだのだと言外に含ませて、シカマルは口角を僅かに上げた。

トントン、

控えめに扉がノックされる。
いのが返事をするとそれは開いて、隙間からいのいちが顔を覗かせた。

「なんだ、勢揃いだな」

「何か用?」

苦笑するいのいちに、いのが慌てて訊ねる。
いのいちは顔だけ部屋に入れた状態のまま、シカマルの名を呼んだ。

「五代目が呼んでる。チョウジといのもだ」

「綱手様が?」

眉を潜める三人に急ぐよう言い、いのいちは顔を引っ込める。
猪鹿蝶は顔を見合わせ、直ぐ様彼の後を追った。

三人が去ってから、シカマルの視線での指示を読み取ったネジが、さて、と口火を切る。

「各々、自分の親を見張れ。猪鹿蝶については、俺とテンテン、サクラがつく」

了承の意で頷くメンバーを見渡し、ネジは鋭く呟いた。

「散」

瞬間部屋から人影は消え、只、カーテンを揺らす穏やかな風だけが取り残された。



***



シカマル達は僅かな緊張を抱え、火影の部屋の前で立ち尽くした。
いのいちは早々に去っており、この場にはいない。

背後に立つ二人に視線を送ってから、シカマルは意を決して扉をノックした。

火影が幾分固い声音で、入ってくるよう言う。
失礼します、と低く返して、シカマルは扉を開けた。

部屋に居たのは五代目火影の綱手姫と、上忍のはたけカカシ。

思わず立ち止まる三人に、綱手は並ぶよう顎で指した。

彼らが並んでも、綱手は中々口を開こうとしない。
俯く彼女にカカシが声をかけてやっと、といった風に声を絞り出していた。

「…次期火影に、奈良シカマル。お前の名が上がっている」

思ってもいない言葉に、シカマルだけでなく、いのやチョウジの頭まで思考停止した。

「…は?」

「すぐに就任というわけではないが、今後それに伴う引き継ぎがあることを覚悟しておいてくれ」

酷く事務的な綱手の言葉。
今のシカマルはそれさえ気づけぬ程混乱し、只その場に立ち尽くしていた。

自分が六代目火影?
なら、彼は、

(…ナルトの夢は、どうなるんだよ…)



***



一方、一度解散した筈のメンバーは、何故か一ヶ所に再び集まっていた。
というのも、名家旧家の一同が、揃って里人の近寄らない死の森入口に集まっていたからである。

最後に現れたのはいのいち。
それと共に、彼を見張っていたネジが合流する。

「なーんか嫌な感じだな…」

草むらから様子を窺いながら呟くキバに、ヒナタは同意して何度も頷いた。

彼らのこの予感は、数分後的中することになる。



絶望は連鎖する
丁度、坂を転げ落ちる石のように
それは止まらない




2011.07.28
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