聴こえ始めたプレリュード
「気を付けて。あいつにも宜しく言ってくれ」

「ああ」

差し出された我愛羅の手を握り返し、シカマルは小さく微笑んだ。

砂の里での合流任務を終えた彼らは、これから木の葉へと帰還する。
移動に費やす時間の方が多く、これから三日かけて帰ることを思うと、自然と溜息が零れそうになった。

それと、と手を離した我愛羅は懐から取り出した包みを差し出した。

「これは?」

掌サイズの軽いそれをまじまじと見つめて、シカマルは首を傾ぐ。
少し照れたように微笑んで、我愛羅はナルトに渡してくれ、と呟いた。

「砂を固めて作った狐の人形だ」

聞けば、嘗て自らを襲ってきた敵の攻撃を見て思い付いたのだと言う。
その時結んだ友情の証だ、とも。

「…ああ。渡しとくよ」

彼の喜んだ顔を想像したのは同じなのか、シカマルと我愛羅は互いに笑いあった。



***



「私は反対です!」

机を叩いて、奈良シカクは思わず立ち上がった。
しかし周囲の人間の態度は冷たく、シカクはぐっと唇を噛み締めた。

「これは決定事項だ」

「彼は…ナルトは、里の英雄ですぞ!」

「だからこそ、だ」

嘲笑を含む声音が、シカクの熱くなった頭に冷水を浴びせた。

「奴が英雄視されている今、火影にと推してくる里人が出てくる。それは非常に不味い」

「何を…」

「爆弾とスイッチは別にしとくべきだと言っているのだ」

里を滅ぼす力を秘めた人柱力。
そんな爆弾が権力を持つなど言語道断。
彼らはそう言っているのだ。

「それでなくとも、強力な力だ。野放しにはできん」

「しかし殺すなど…」

「先のような争いが二度と起きぬと何故言える?」

総てを貫くような眼光に、シカクは言葉を呑み込む。

世界を統べる為、人柱力の力を利用する輩。
彼らから世界を護る、一番手っ取り早く被害の少ない方法。
―――その器ごと、殺していまえばいい。

「本人も了承済みだ」

シカクは血が滲むのも構わず、掌に爪を立てた。
権力者達の陽気な笑い声が、憎くて仕方ない。

「次期火影は奈良家の嫡子でどうだ。あの頭のキレは類を見ない」

「それはいい。…シカク、これで奈良家も木の葉も安泰じゃな」

沸き上がる怒りを抑えつけながら漏らした言葉は、掠れた音にしかならなかった。



***



(何の話をしてるんだ…?)

護衛の為会議室の外に控えていたサイは、聞こえてきた内容に愕然と立ち尽くした。

仲間が処刑される―――そう決定が下される音が、耳から脳へ反響していく。

「…これで、あの忌み子を見なくてすみますな」

やれやれと、溜息混じりの声がする。
瞬間サイの頭は沸騰し、手は背中の武器に伸びていた。

「止めろ、サイ」

そのまま会議室に飛び出さんばかりのサイを、ヤマトが腕を捻り上げて拘束する。
詰まる息を吐き出して、サイはでも、と声を荒げた。
し、と人差し指を口に当てて彼を鎮め、ヤマトは大人になれと言う。

「今ここで君が暴れれば、それこそ逆効果だ。感情に身を任せるな。暗部での教えを忘れたか」

潜めた声で諭すヤマトの言葉に、サイは唇を噛み締めたまま俯いた。
戦意の喪失を見てとって、ヤマトは拘束の手を外す。
武器から手を離して、サイはその平に爪を食い込ませた。

「…あんまりだ…ナルト…っ」

「……」

昔よりも感情豊かになった後輩を、複雑な気持ちで見つめ、ヤマトその項垂れた頭に手を置いた。

シカマル達が木の葉を出た、翌日の出来事である。



***



一週間ぶりの故郷には、何年も留守にしていたような懐かしさがある。

「やっと着いた」

「お腹空いたなー」

「サクラ達誘って焼肉行かない?」

いのやチョウジも感じることは同じらしく、ウキウキとした様子だ。

「俺寄る所あるから先行っててくれ」

ポケットを握りしめ、シカマルは足を止めた。

「はいはい。ついでにナルトも連れてきてね」

笑顔で手を振るいのにはお見通しらしい。
小さく苦笑して、了承した。

シカマルが踵を返すと、いのが親友の名を呼ぶ。
タイミング良く見つけられたらしい。

「ちょ、ちょっとサクラ?!」

足を速めたシカマルは、急に服の裾を引っ張られ、追いかけてきたサクラと向かい合わせにさせられる。
思わず文句の言葉を呑み込んだのは、彼女の頬が濡れていたからだ。

「シカマル、ナルト知らない?」

「ナルト?」

シカマルの胸倉を掴んでサクラは声を張上げる。

「いないのよ…ナルトが何処にも…!」

一瞬、目の前が真っ暗になる。

ポケットに入れた首飾りが、やけに澄んだ音を立てた。



彼の笑顔
それが俺達の希望だった
それが奪われるなんて
誰が想像できただろう




2011.07.20
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -