初恋(210628)
初恋は実らない。いつか、女子がそんなことを嘆いていた。
確かにそうかもなぁと綱吉が実感したのは、中学三年の春だった。雲雀に告白されたからである。
沢田綱吉の初恋は、恐らく笹川京子だ。中学一年の春から二年の秋頃までは、確かに彼女に恋をしていた。しかし告白しないまま、綱吉の恋心は別の人間へ向かってしまった。それが、雲雀恭弥である。その辺りの葛藤については長くなるので、今は割愛する。
つまり綱吉にとって成就したのは初恋ではなく、二つ目の恋だった。だからこそ、初恋は実らないという言葉を実感しているのだ。
「不細工な顔」
窓枠に頬杖をついてぼんやり裏庭を眺めていた綱吉は、そんな言葉と共にヅイと頬を指で刺された。綱吉が視線を向けると、二つ目の恋の当事者と目が合う。綱吉の頬の感触と表情が満足のいくものだったと言うように、彼は口元を緩めている。
雲雀恭弥がこんな表情をする男だと、綱吉は少しも知らなかった。いつもスリルと血の匂いを求める誇り高い浮雲が、小さな動物に優しく触れるのだ。
「何ニヤニヤしてたの」
わざわざ綱吉の隣に来て、同じ風景を見ようとチラリ窓の外へ視線をやる。その様子に、綱吉の口元が思わず綻んだ。
「雲雀さんが、俺の隣に立っていてくれて嬉しいです」
雲雀は一瞬虚をつかれたようにキョトンとしたが、何を今さらと呆れたように吐息を溢した。
「まあ、僕も意外だと思っているよ。小動物の生態系や生存戦略に興味なんてなかった」
確かに、アーデルハイト戦での言葉は意外だった。肉食獣代表のような雲雀が、小動物の生存戦略を認め、戦いに活用するなんて。
「けど、これが初恋ってやつなんじゃないの?」
鼻先数センチの位置まで近づいた雲雀の唇が、そんな言葉を紡いでからユルリと弧を描く。今度は、綱吉がキョトリと目を瞬かせる番だった。それから慌てて、口元に手の甲を当てる。そうしてないと表情筋でも制御できないほど顔が崩れてしまいそうだった。
「……すごいですね、雲雀さん」
「そう?」と雲雀は首を傾げる。敵わないなぁ、と綱吉は心の中で呟いてゴシゴシ頬を擦った。
後日、別件で綱吉は口を滑らせる。
「初恋は実らないって本当なんだなぁって」
「はあ?」
途端に雲雀は表情を険しくし、ガシリと綱吉の顎を掴んだ。骨を砕かんばかりの力だったので、綱吉はそれ以来、その話題は地雷だと避けるようになるのだった。
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