01:あさをさがす
目が覚めた。カーテンの隙間から見上げた空は暗く、夜明けにはまだ遠い。
記憶が途切れるまで隣でゲームに興じていた綱吉は、申し訳程度に毛布を引っかけた状態で床に転がっている。彼から借りたもう一枚の毛布を膝から降ろして、炎真は立ち上がった。
黒い空に星はない。雨雲が通り過ぎた後なのか、踏みしめた地面は少し濡れていた。
沢田家を出て、炎真は一人月明りのない空の下を辿る。宛はなかった。それでも炎真が立ち止まれる場所は先ほど出てきた沢田家か、家族の眠る民宿か、たまに野良猫やスカルと遊ぶ土手しかない。結局、炎真は土手を選んだ。
少し湿った草の上に腰を下ろし、立てた膝を抱える。黒々とした水面が風で揺れるさまを眺めていると、軽い足音が遠くから聞こえてきた。
「エンマ!」
「ツナくん」
駆け足で寄って来た綱吉は、膝を抱えた炎真を見るとどこかホッとしたように息を吐いた。
「ここにいたんだ」
「ごめん、心配かけちゃった?」
「少しね」
小さく笑って、綱吉は炎真の隣に座った。自然な動作で、炎真はただその様子を見つめた。
「気が付いたらいなかったからさ。つい、手紙を探しちゃったよ」
「……ごめん」
「冗談だよ」
笑みに少し苦みを乗せて、綱吉は川を見やる。炎真も視線をそちらへ戻して、顎を膝に乗せた。
風に押される波が、僅かな明暗となってその存在を知らせる。耳鳴りのような虫の声と、遠くで鳴く鳥の声。時折、エンジンの音がして、視界の端でチカチカとライトが点滅していく。
どれだけそうしていたか、不意に沈黙を破ったのは綱吉だった。
「そろそろ戻ろう。まだ寒いから、風邪を引いちゃうかもしれないし」
膝に手を置いて立ち上がり、綱吉は炎真を見下ろす。
炎真は顔を上げた。立ち上がった綱吉の背後、橋の向こうに広がる空が白くなり始めている。薄雲のような夜の帳を引き裂く光が、チラチラと栗色の髪を照らしていた。
「……うん」
先ほどの綱吉の言葉に頷いて、炎真も立ち上がった。
夜の皮が剥がれかける空の下、綱吉の背中を見ながら炎真は歩く。綱吉は少し空を見上げるように顎を上げたまま、フッと息を吐いたようだった。薄く色のついた呼気が、空へ溶けていく。
「そろそろ毛布だけじゃ寒いかな」
「かもね」
炎真も、同じように息を吐く。
「それで目が覚めたの?」
「……どうだろう」
曖昧に言葉を返すと、欠伸がこみ上げてくる。あ、く、と炎真が大きめの欠伸を溢すと、いつの間にか振り返っていた綱吉が、クスリと笑った。
「戻ったら、二度寝しちゃおうよ」
「リボーンに怒られない?」
「休日だし大丈夫だって」
綱吉はどこか楽しそうだが、そんなことを言って結局叩き起こされる光景が炎真の脳裏には容易に浮かぶ。
「……また、迎えに来てくれる?」
ポツリと、炎真は呟く。綱吉は足を止めて、キョトリと目を瞬かせた。炎真の足が追いついて、隣に並ぶ。
「良いけど……また深夜徘徊する気?」
「言葉にするとちょっと危険なことみたいだね」
「あはは、炎真って意外とワル?」
「マフィアのボスに言う?」
違いない、と綱吉はクスクス笑う。炎真の口端も自然と持ち上がった。
夜明けの光が街を照らす。その中に溶けていくのを感じながら、炎真は傍らにある眩しい存在に目を細めた。
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