17:ただ、それだけ
「どうしてあんな無茶したんだ」
思わずこぼれた言葉は、あの戦いの後からずっと訊ねたかった疑問だった。綱吉の心の奥底にずっとへばりついて、ガムのようにとれなかった。
デイモンとの戦いの傷がまだ癒えない炎真は、ベッドの上で座った状態で目を瞬かせた。
彼の隣のベッドに座った綱吉は、膝の上で拳を握りしめる。固く握られた拳を一瞥して、炎真は絆創膏の貼られた頬を掻いた。
「それは……イクスバーナーの射程前に飛び出したこと?」
綱吉がコクリと頷くと、炎真は言葉を探すようにもごもごと唇を動かした。綱吉は判決を待つような面持ちで、彼の言葉を待つ。
「デイモンを斃すにはそれしかないと思ったし、あそこで僕がデイモンの動きを止めなければ、どの道みんなやられてた」
「でも、自分の命を捨てるような真似……俺は、誰にもしてほしくない」
綱吉の脳裏に、未来の世界で出会った少女と男の顔が浮かぶ。世界のために、巨悪を退けるために、二人はその命を燃やした。あんな悲しいことを繰り返してはいけないと、綱吉は今でも強く感じている。
炎真は少し困ったように首を斜めにした。
「そうだね、僕もアーデルたちシモンのみんなが同じようなことをしたら、迷うかも……でも仲間の意志を尊重してしまうかもしれないって思うよ」
「それは……エンマなら打ってたってこと?」
「んー、分からない」
クスクスと炎真は笑う。彼の言葉の意図がつかめず、綱吉は眉間に皺を寄せた。
「でも、これだけは分かる」
口元を少し隠していた手を下ろして、炎真はじっと綱吉の瞳を見つめた。赤い、独特な虹彩を持つ瞳に見つめられ、グッと綱吉は息を飲む。
「そんなツナくんだから、僕らは命を張れるんだよ」
「……それ、リボーンも言ってたけど」
さっぱり意味は分からなかった。渋い顔をする綱吉を見て、炎真はまたクスクス笑う。むすりと頬を膨らませ、綱吉は肩を落とした。
「僕が飛び出した理由もそれだけ」
キラリ、と窓から射し入った日光が、炎真の指に鎮座するシモンリングに当たる。その手が、綱吉のボンゴレギアを持つ手に重なる。
過去から繋がる二つのリングが、現代の光を受けて同じように煌めいた。
「ツナくんなら、何があっても僕たちのために動いてくれるって信じてたから」
「俺なら……?」
「だって、そう言ったのは君だよ」
仲間を、炎真自身を誇りだと言ったのは綱吉だ。なんだか無性に恥ずかしさがこみ上げてきて、綱吉は自由な左手で汗かく顔を隠した。
腕の隙間から、ニッコリと微笑む炎真の顔が見える。理由の分からない悔しさがこみ上げてきて、綱吉は唇を噛みしめた。
「本当に、ただそれだけだよ」
とても嬉しそうで楽しそうな炎真の顔を、綱吉はどこかへ押しやりたくなった。
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