She is the HEROIN!
「無茶すんなよ、ダイヤ」
「おっけー。パールもねぇ」
気晴らしに遠出したときだった。突然馬車をひっくり返され、地面へ投げ出された。そこで周りを取り囲んだのは、奇怪な生物たち。呆然とする中、これまた突然現れた少年たちが、奇怪生物たちを破壊していった。凛と立つ二つの背中に、理想の騎士の姿をプラチナは見たのだった。



ふと頭を過った回想から還り、プラチナは自身を落ち着けるように息を吐くと、閉じていた瞼を開いた。目前に聳えるのは、アクマの襲撃を受けボロボロになった船。エクソシストとしての、プラチナの初陣だ。ここまで連れてきてくれたパールとダイヤの笑顔を一瞥し、プラチナは胸の前で指を組んだ。両手の細い指に嵌った指輪の装飾が、日に煌めく。
「イノセンス、発動。刻石(タイムリング)」
家宝の指輪から作られた、プラチナの対アクマ武器は飴のように形を変え、手の甲から手首へ金属を伸ばした。まるで手甲のようになったそれへ、力を集中させる。
(右手には真円なる空間、左手には硬き時を――)
船の頭上に、六角形の時計が浮かぶ。黒曜色の針がグルグルと逆回転を始めた。
「――時を巻き戻せ、時間回復(リカバリー)」
かちん。針が12の位置で止まる。するとボロボロだった船は新品同様――アクマの襲撃を受ける前の状態に戻ったのだ。
「……ふう」
うまくいったと安堵し、プラチナは胸をなでおろした。
「さっすがお嬢さま!」
「何度見てもびっくりだよなー」
エクソシストの自分たちが言うことではないが、とパールはぼやいて、口をあんぐりと開けた先輩たちを見やる。それはともかくとして、「ご苦労様」とパールとダイヤはプラチナの両脇に立ち、彼女へ手を差し出す。ニコリと笑って、プラチナは二人の騎士の手を取った。
「今のは……」
驚いた顔で、サファイアが恐る恐る声をかける。プラチナは優雅に微笑んだ。
「船の時間を、昨日の襲撃前まで戻しました。発動中なら、何度攻撃を受けてもこの状態に回復します」
「ほあー」
「それはすごい……んだけど」
ヒクリ、とルビーは口元を引き攣らせる。
「ナナシマへ着くまで、大丈夫かい? その……寝ている間は発動できないだろ?」
ルビーの指摘に、「あ!」とパールたちまでもが口を開く。ナナシマへはとても一日で着くことはできない。その間、プラチナは徹夜しなければならないのだ。
「大丈夫です。私、憧れていましたの。お友達と、夜通しお喋り」
キラキラとした瞳で、プラチナはパールとダイヤを見やる。パールたちはこっそり顔を見合わせた。二人は徹夜に慣れているから――ダイヤは少々辛いところだが――別に彼女に付き合うのは構わない。しかし、つい先日まで深窓のお嬢さまだった彼女に、徹夜は想像以上の辛さだと思うのだ。
(本当に大丈夫かなぁ……)
その場にいた者たちの不安など余所に、プラチナはニコニコと微笑続けていた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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