君に捧ぐラブソング
―――重苦しい。
その一言に尽きる空気が、部屋中を満たしている。
薄暗がりの中、奥へと平行に伸びる二つの長机と、そこに座る無数の人影。
唯一人佇むのは、下座にいる女性のみだ。
「では、判決を下す」
ごくり、と汗ばむ女性の喉が鳴る。
座る人影の誰かが、ゆっくりと口を開いた。
「―――うずまきナルトを、処刑せよ」
―――カーン、
甲高い音が部屋に響く。
先程よりも増した威圧感の中、女性は唇を強く噛み締めた。
***
爽やかな青空だ。
漂う雲が羨ましい。
お決まりの口癖をぼやいて、奈良シカマルは溜息を溢した。
こっそりしたつもりだったが、それを目敏く見つけた山中イノに背中を叩かれてしまった。
「ちょっと、気合い入れてよね。久々のCランク任務なんだから」
へいへい、と適当な返答をして受け取ったばかりの任務書を脇に挟む。
ポケットに手を突っ込んでふと横を見やれば、相も変わらずスナック菓子を頬張る秋道チョウジの姿が。
呑気で羨ましいな、と。
最近、知能を認められた為任務依頼が増えた面倒臭がりの中忍は、本意でないこの状況に肩を落として嘆息した。
「あ、シカマル」
名前を呼ばれて顔を上げれば、見知った金色が視界に映り込んでくる。
大きく腕を振るナルトの姿に思わず破顔すると、脇に抱えていた依頼リストをイノに奪われた。
何故かニヤケ面の彼女を睨めば、先行ってるわよ、の言葉と共に背中を強く押される。
理由の解らない気恥ずかしさを誤魔化す為に頭をかいて、シカマルは駆け寄ってくるナルトに視線を落とした。
「これから任務だってば?」
「ああ。砂の里にな。一週間くらい」
「…そっか」
頑張ってな、と微笑む姿に愛しさが込み上げる。
唐突に、長年心の奥底で燻るこの想いを、吐き出してしまいたい衝動にかられた。
シカマルは、目の前に立つこの金色の少年が好きだった。
何時から、なんて覚えていない。
気がついたら、目で追っていた。
一目惚れだったのかもしれないと、今になって思う。
イノとチョウジにはとっくの昔にバレた。
というか自覚する切っ掛けが、二人の言葉だったのだ。
それからというもの、イノは何かと世話を焼いてくる。
しかしシカマルにとって、それは有り難迷惑だった。
彼自身は、今の関係に甘んじていたかったのだ。
この、馬鹿をやりあえる親友のまま。
けれど本当に偶に、想いを吐露してしまいたい衝動にかられる。
丁度、今みたいに。
が、シカマルはそれを寸での所で抑え込んだ。
まだだ。
まだ、言うべきではない。
けどせめて、この任務が終わったら、
「ナル、」
「…好き」
お前に言いたいことがある。
そう格好つけようとしたシカマルは、ナルトの予想外の言葉によって出鼻を挫かれた。
呆けるシカマルに、ちょっと照れたような笑みを浮かべるナルトは、贔屓目無しでも愛らしいと思う。
そんなシカマルの馬鹿な思考回路を知らないナルトは、じゃあ、と小さく手を振った。
「それだけ言いたかったんだ」
ありがとう。
その言葉の意味にシカマルが思考を巡らせているうちに、ナルトは駆け出していた。
すでに遠くなった背中に向けて手を開いて、閉じる。
任務から帰って来たら、真っ先に彼の元へ向かおう。
そう、握りしめた拳に誓った。
あの時の彼の言葉と、どこか悲しそうな笑顔の意味に、
浮かれきっていた俺は、気づくことが出来なかった
それを、今でも後悔している
2011.07.04