HERO comes here
びゅおおおお――
風の音がまるで獣の遠吠えのよう。ここはどこの国の片隅であるのか、天へ向かうように伸びた大地に、これまた太陽を掴むため――とまでは行かずとも――高く積まれた黒い塔が建っていた。夜の入り始めのためか、立地のためか鳥以外に動くものはない――かに思われた。
「えいや!」
がし、と大地の端、崖になっているところへ手をかける少年の姿が一つ。傍らには、何やら桃色の物体がふよふよと浮いて、少年の荷物を運んでいる。やがて少年は塔の立つ平地へその身を乗り上げ、大きく息を吐いた。
「やっと着いた……」
肩で息をし、顎に垂れた汗を拭う。話に聞いてはいたが、まさかこんな、階段すらない崖の上にあるとは思わなかった。桃色の生き物から荷物を受け取り、少年は塔をキラキラとした瞳で見上げた。
「やっと着いたな、ムシャ――エクソシストの総本山、黒の教団に!」
背負った大剣は彼の武器のイノセンス――少年はそれを操り戦うエクソシスト、名をブラックという。



「えーっと……」
ブラックは塔の足元まで行き、その大きさに見合うほど荘厳な門を見上げた。
「どこがチャイムなんだろう……」
ブラックの疑問と呼応するように、ムシャもクルクルと回転する。黒の教団に所属する幼馴染は、紹介状を送っておくと言っていたが。ブラックが頭を掻くと、ムシャがツンツンと鼻で突いた。
「ん?」ブラックがそちらを見やると、奇怪なオレンジ色の生物が、ムシャと同じように浮遊している。「なんだこれ」
眉を顰めるブラックを見ると、その生物はシシシと笑って、身体らしき四角い部分を光らせた。
「おお?!」
「あはは、驚かせた?」
黒いままのそこから、人間の声が聴こえてきた。どうやら、ムシャと似たような仕組みの通信ゴーレムらしい。
「黒の教団の者だけど、君は? 何か用かな?」
「あ、俺、ブラックです。イッシュ支部科学班班長、チェレンの紹介で来ました。幹部の方へ謁見賜りたいのですが……」
「チェレンの?」
声はキョトンとしたようだ。それからボソボソと「聞いているか?」と周囲の人に確認しているらしい声がする。やがて心当たりがなかったのか、申し訳なさそうに「悪いけど、そこの身体検査受けてくれ」
「身体検査?」
ブラックがキョロキョロと辺りを見回そうとした途端、ズシン、とした地響きが辺りを揺らした。驚いて顔を上げると、巨大な門番用ゴーレムがブラックを覆うように見下ろしていた。ヒクリと頬を引き攣らせるブラックを映すように、丸い目が動く。赤外線のような赤い光が、ブラックの額から足元へ。やがてピコピコと六つある目が点滅し、『異常ナシ』という機械音が聴こえた。
「あれ、人間か」
通信ゴーレムから、意外そうな声がした。
「見つけたぞ」
別の低い声が、話に入って来る。
「チェレンからの紹介状だ」
「あ、あったんだ」
「……おじいちゃんの机にな」
低い声はどこか気まずそうだ。最初の声も乾いたような笑い声を上げる。
「……取敢えず、歓迎しよう、ブラック」
低い声が合図のように、門番ゴーレムが大きな扉を開く。自動ではないのか……とブラックは現実逃避のように呟いた。
何はともあれ、やっとここから始まるのだ。背中の大剣の重みを噛みしめながら、ブラックは唾を飲みこむと、ムシャと共に開いた塔の中へ足を踏み入れた。


(20170924)
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