第6話 chapter4
「行くのか、望月」
「はい」
芽心は力強く頷き胸元の向日葵へ手をやった。
「いつまでも待っているだけの自分は終わりにします。今度は、私からメイちゃんに会いに行かなきゃ」
ゲンナイの話では、始まりの街にメイクーモンのデータが還った様子はないという。
最後の瞬間、太一たちの目にはメイクーモンのデータがデジタルワールドへ散らばったように見えていた。芽心は、デジタルワールドに散らばったメイクーモンのデータを集めるため、夏休みをかけてデジタルワールドを巡ることに決めたのだ。
「どこにいるか分からない。例え見つけても、私のことなんか覚えていないかもしれない」
芽心とメイクーモンは、ただ姫川の策略によって引き合わされただけの関係だった。しかし、それは始まりに過ぎない。あの戦いのとき、芽心の手には確かにD3が現れ、彼女の想いに応えてメイクーモンは進化を遂げた――それに意味がない筈なんて、ない。
「何度だって『はじめまして』を言います。それが、メイちゃんと私の絆なんだって、やっと分かりましたから」
芽心の笑顔は実に晴れやかで、嘗て見えていた憂いはない。
「でも、一人は危険じゃ……」
ミミたちは何度も、同行を申し出た。デジタルワールドは、いつでも帰れる手段があるとは言え、危険な場所もある。しかし、芽心は頑として首を縦に振らなかった。ミミたちにいつまでも甘えてしまう、そんな自分から一歩踏み出すためには、芽心だけで行きたいのだと。
「問題ない」
心配するミミの言葉を遮り、赤いマントを翻してハックモンが歩み寄った。
「ハックモン?」
「俺も行こう」
「どういう風の吹き回しだ?」
「勘違いするな。一から修行をし直すためだ。その道中が、別の誰かのものと重なったとて支障はない」
「まるで騎士だな」
「利益の一致だ、勘違いするな」
揶揄うヤマトに鋭い言葉を返し、フンとハックモンはそっぽを向いた。クスリ、と芽心は微笑む。
[俺もサポートするからな、望月]
「ありがとうございます、西島先生」
芽心が腕につけた時計から、ホログラムが照射される。そこに映るのは、現在長期療養休暇中の西島の顔だった。
[気にするな、俺もそこのヤツと同じ『利益の一致』があるからな]
「先生、姫川さんのこと、捜すつもりみたい……」
こっそりとミミが丈へ囁く。丈は思わず、口元を歪めた。
あの戦いの際、姫川は精神データの状態でデジタルワールドに存在していた。その存在状態故、オルディネモンと同化しかけていた彼女は、オルディネモン崩壊と共に消失した。
しかしここはデータの世界。西島は消失(デリート)したのではなく、分解したと考えているのだ。
[俺だって見つけてやるさ。そして今度こそ、アイツを救ってやりたい]
「先生……」
もう教師じゃない、と西島は苦笑した。
「まだ行かないのか、時間は有限だ」
「あ、そうですね」
ハックモンに促され、芽心は改めて太一たちの方を見やった。
「ありがとうございました。そして、ご迷惑をおかけしてすみません。私が不甲斐ないばかりに……」
そんなことない、と口を挟もうとした空は、ヤマトの手にそれを制された。
「今はまだ無理でも、きっと皆さんのような素敵なパートナーになって、メイちゃんと一緒に帰って来ます。その時は……どうか、もう一度、私たちを仲間と呼んでもらえないですか?」
深々と頭を下げる芽心に、太一たちは思わず顔を見合わせた。それからフッと微笑む。
「そんなこと、気にしなくて良いのに」
「そうそう、そんなの今更じゃん?」
「僕らが勝手に決めるようなことでもありませんし」
「今回の結果は、芽心さんが諦めなかったからでもあると思うし」
「私こそ、いっぱい芽心さんたちに助けられました」
「だから、絶対に一緒にまた会いに来てね」
空はそっと芽心の肩を撫でる。
子どもたちの足元にいたデジモンたちも、ぴょこぴょこと跳ねた。
「オイラたちも応援してるよ」
「そうよ、だから頑張ってね」
「けど、無理したらあきまへん。二人のペースで歩いて行けばええんでっせ」
「ボクも、タケルとまた会えたもん。メイクーモンともまた会えるよ」
「心の光を失くさなければ、どんな願いも現実になる」
「きっと、素敵なパートナーになれるわ」
最後に、ヤマトたちが前に出た。
「こちらこそありがとう、望月」
「メイクーモンにも、よろしく」
芽心は目を丸くした。
彼女へ向けて、太一は微笑んで親指を立てて見せる。隣に立ったアグモンもビシと腕を上げた。
「俺たちは、仲間だ」
「もちろん、メイちゃんもね」
ぽつ、と芽心の瞳の端に雫が浮かぶ。それを指で払って、ニッコリと微笑む。
「――はい!」
向日葵の花が、よく似合うような笑顔だった。

▲エンディング:Butterfly-ver.TRI-

当てはあるのかと、デジモンは訊ねた。
サラサラとした砂に足を取られながらも、懸命に力を込めて歩く少女は、コクリと頷く。
「取敢えず、向日葵の咲く場所を探そうと思って」
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