開けてびっくり玉手箱
海のように鮮やかな青がはためく。それは眩しく、橙のような髪と共に山姥切の目を焼いた。
真っ青な空の下、真っ白な布が列を成して広がっている。天気が良いから洗濯をしようと言ったのは堀川で、各部屋から敷布を集めてきたのは今剣他短刀たちだ。それを全て滲み一つなく洗い上げた大倶利伽羅たちは、すっかり疲れ果てて大広間に転がっている。
山姥切と共に敷布を物干し竿に掛けて回った浦島は、小さい背を大きく伸ばして気持ち良さそうに唸った。
「良い天気だなぁ!」
「ああ……本当に」
風に巻き上げられそうになる襤褸をそっと抑え、山姥切は目を焼く太陽を少し見上げた。隣に並ぶ浦島は腰に手を挙げ、満足げな吐息を漏らす。
「こんな日にゃぁ、竜宮城へ行ってみたいもんだ!」
行き方わかんないけど!と、浦島は陽気に笑う。山姥切は空になった籠を地面に置き、横目で彼を見やった。
「竜宮城なんて、本当にあると思うのか?」
「お、きんじさんは夢がないねぇ」
手を頭の後ろで組んで、浦島は変わらずカラカラと笑う。山姥切はそれを直視しないよう、襤褸の影で目を細めた。浦島は山姥切へ向けていた視線を、空へと戻した。
「俺たちは塩水に浸かっちまえば、簡単に錆びちまう。けど、だからこそ焦がれるんだよ」
あの深い青の底に、蛍や提灯よりもきらきらと輝く世界がある。それを想像するだけで、心が躍る。これは、己の身に刻まれた絵のせいなのか。
翠の瞳を輝かせる浦島を一瞥し、山姥切は一息吐いた。
「……まるで人のようなことを言うんだな」
「俺は刀剣だぜ、可笑しなことを言うんだな」
「……」
馬鹿にされた、のだろうか。思わずそんなことを考えて黙り込む山姥切を気にせず、浦島は「それに」と言葉を続けた。
「今は人の真似ごとしてんだ。考えることを真似ても、別に良いだろ?」
にゅ、と浦島が唐突に襤褸の中を覗きこんでくる。山姥切は慌てて身を引くと、頭巾を深くかぶった。
「な、なんだ、いきなり」
「いや、どんな顔してんのかと思って」
堪らない、と山姥切は込み上げる焦燥を唾と共に吐き出した。浦島は感心したように声を漏らし、にぱ、と笑った。
「きんじさんは、海月みたいだな」
ふと、浦島の背後からやってきた風が一陣、彼と向かい合っていた山姥切の襤褸に絡みついた。風は裾と頭巾を掴んで、襤褸を山姥切から引きはがすように通り過ぎていく。
「……っ」
「それに、」
思わず顔の前で腕を交差させ、山姥切は目を細めた。風が収まった頃に顔を上げてもまだ、浦島はこちらを見て微笑んでいた。
「綺麗な金と緑だ」
取り残された微風が、襤褸の裾と戯れる。
目を焼く眩しさに目を細め、山姥切はそっと頭巾をかぶり直した。全く、何を考えているか解らない刀剣だ。
「……綺麗とか、言うな」
ボソリと呟かれた言葉を右から左へ聞き流しながら、ふわふわと舞う布がやっぱり海月のようだ、と浦島は独り言ちるのだった。



(20150611)
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