日常クエスト(星祭編2)
街を歩くと、シャーリィたちは当たり前だが人の目を惹いた。大勢の視線を受けることに慣れないシャーリィは、少し肩を縮めて足元に目を落とした。すると、パンと肩を後ろから叩かれる。驚いて振り返ると、憮然とした顔のテューラがそっぽを向いたままもう一度シャーリィの肩を叩いた。
「前を向いて、胸を張ってください。あなたは二つの民族を繋ぐ架け橋なのでしょう」
「テューラさん……」
「そんな頼りない人に、水の民とのことを任せられません」
ツンと澄ましてはいたが、それは確かに激励の言葉であった。驚いてシャーリィがマジマジテューラを見つめると、彼女はバツが悪そうに顔を顰めてシャーリィの隣に立った。
「前を向いて歩いてください。転びますよ」
「あ、うん」
慌ててシャーリィが視線を前方へ戻し、言われた通り胸を張って歩くと、テューラは小さく息を吐いた。
「……別に、あなたや陸の民のことをすぐに許せることはできません」
「……うん」
「でも、まあ……姉さんに免じて、少しくらい考えても良いかなと、思うようになりました」
「テューラさん……」
「けど、」
語調荒く言葉を切って、テューラは鋭い視線をシャーリィへ向けた。
「あなたが外交官にあるまじき行為をしないか、私は見ていますから。それをお忘れなく」
「……うん、ありがとう、テューラさん」
「……テューラで、良いです」
そっぽを向いて照れたように溢された言葉に、シャーリィはパアッと顔を輝かせた。

二人の水の民の少女のやりとりを、彼女たちの後ろを歩きながら見守っていたミュゼットたちは、微笑ましいことだと顔を見合う。ウィルは内心、ハラハラしていたのだが。
「……里がもう少し落ち着いたら、私は代表を降りようと思う」
ぽつりとマウリッツが呟いた。ぎょっとしてウィルは彼を見やる。ミュゼットは「あら」と頬へ手をやった。
「若い者たちの力が必要だと思いましてね。すぐには無理ですが、里の者や移民が落ち着いてから」
「それは……また」
「突飛なことでもあるまい。未来は若い者たちが作る、過去に囚われる老いた者ではなく……それを、私は君たちに教えられた」
マウリッツの言葉に、ウィルは口を噤んだ。
「そうですね、私も、いつまでも遺跡船の中心となるわけにはいきません。ゆくゆくは、保安官のあなたにお願いしないとね」
「そんな、自分はまだまだ……」
「謙遜しないで」
クスリと笑うミュゼットに、ウィルは居心地悪く肩を揺らした。二人の様子を見て、マウリッツの口元には自然と笑みが浮かぶ。
「次期代表も目星をつけている。引継ぎなども含め、君にも力を貸してほしい」
「はあ……その次期代表というのは……」
頭を掻くウィルへマウリッツはいたずらっぽく笑い、「君もよく知っている」と呟いた。

クロエはそっと水面に葉を浮かべる。それは沈む様子を見せず、緩やかな流れに身を任せてすぐに見えなくなった。ノーマと共にそれを見送り、クロエは立ち上がった。
「願いごと、叶うといいね」
「ああ。ノーマもな」
「あ、それ若干嫌味?」
ぷっくり頬を膨らめ、ノーマは胸を覆うように腕を回す。笑って誤魔化し、クロエは街の方を見やった。
「シャーリィたちは、まだこちらに来られそうにないかな」
「かもねー。ま、そのうち来るっしょ」
先に屋台を回って来ると言い残し、ノーマは飛び跳ねるように走って行った。彼女の背を見送り、クロエはゆっくりと川を辿って街への道を進んだ。
魔物騒動のこともあるため、今回の祭りはあまり街の外へ出ないよう言われている。一応、警備の人間が見回りもしているのだが、この辺りまでやって来る住人はやはりいなかった。
街の方から流れてくる葉を見送りながら、クロエは足を進める。ふと、木の向こうで何かが通り過ぎた。キラリ、と月光を受けて光ったように見えた色は、銀。
「……クーリッジ?」
「クロエ……」
クロエは思わず言葉を飲みこんだ。彼女の反応を見て、セネルは苦笑する。
「やっぱり似合わないよな……」
「いや……」
似合わないと言うより、初めて見た服装に驚いたのだ。セネルは普段、マリントルーパーとして水の抵抗が少ないぴったりとした服を着ている。それが今は、広い袖と裾のワルターが着ていたものと似た姿。マントはなく、手首の武器も外した彼は、少し頼りないと言いたげに手首を触っていた。
「シャーリィも別の衣装を着ていたが……」
「ああ、ワルターに言われてな」
どうやら時間がかかっていたのは、武器も外せと迫られたかららしい。ワルターに輝きの泉へ向かえと言われたセネルは丸腰で、もし魔物と遭遇したら追い払うことも難しいだろう。
「私もついて行こう」
「すまない。祭りを楽しんでいたんだろ?」
「気にするな」
クロエは街へ向けていた爪先をクルリと回し、セネルと共に輝きの泉を目指した。
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