日常クエスト(ノーマ編)
ハッとノーマが目を覚ますと、そこは夜の病院だった。慌てて身体を起こすと、今まで感じたことのない激痛が走り、ノーマは身体を丸めて唸った。
「急に動くからだ」
呆れたような声は、傍らから聴こえてくる。どうにかして首を回すと、腕を組んだウィルがため息を吐いてノーマを見下ろしていた。
「私……どうなったんだっけ?」
「エバーライトを見つけた途端、気絶したんだ」
緊張が解け、毒や傷に身体が耐え切れなくなったのだろう。ウィルの刺々しい言葉に、ノーマは視線を逸らして乾いた笑みをこぼした。ウィルは椅子を引いてきて、もう少し寝ていろとノーマに掛布団をかぶせる。
「そんな、早くあのジジイにエバーライトを見せたいのに〜」
「逃げはしないのだから、せめて夜明けまで待て。他の奴らも休息が必要だ」
「……ウィルっちは?」
「お前がまた病室を抜け出さないように、交代で看病することになった」
今はウィルの担当時間だと言って、彼は読みかけの本を指で指した。そこまで言われてしまっては眠るしかない、とノーマは大人しく掛布団を引っ張る。
「今何時? ウィルっちは何番目なの?」
「深夜二時だ。俺はシャーリィと交代したばかりで、次のモーゼスに交代するのは一時間後だ」
分かったらさっさと寝ろ、とウィルは視線を鋭くさせる。肩まで掛布団に潜って、ふとノーマは気になる名前がウィルから出たことに思い至った。
「リッちゃんも、看病してくれたんだ?」
「ああ。……そういえば、セネルが心配していたぞ。シャーリィとノーマは何かあったのかとな」
この騒動が起こる少し前「ノーマさんて……」とシャーリィが何かを考え込むように言い淀んだのだ、と言い出したのはセネルだった。ノーマがどうかしたのかセネルが訊ねると、シャーリィは首を振り「何でもない。……頼ってばかりだと、余計だめだよね」と呟いたそうだ。セネルはさっぱり思い当たることがなかったのでウィルに相談し、ウィルは、シャーリィ本人が気にするなと言ったのだから気にしてやるな、と返したと言う。
思い当たることのあるノーマは、顰めた顔を掛布団に少し隠した。
「……あまり他言するなと言われているがな」
「?」
「二人が一緒に暮らしていないのは、シャーリィが言い出したことだ」
ウィルは本へ視線を落としたまま、足を組む。
「水の民と陸の民の橋渡しとして相応の働きができるまで、甘えたくないそうだ」
ウィルもセネルから又聞きした決意だったが、少女の想いは想像に難くない。
水の民から指導者(メルネス)の癖に、と後ろ指さされる状況の続く中、懇意にする陸の民の元に身を寄せているとなれば、さらに批判は増し、陸の民との交遊も遠のく可能性がある。一人でも凛と立つ水の民の外交官となるべく、シャーリィは振舞っている最中なのだ。
「そんなん……私に言われても」
そう返すしか、ノーマはできなかった。まだ身体が本調子でないせいだ、と誰に言うでもない言い訳が胸中に浮かんだ。ウィルは口元に笑みを浮かべて「そうだな」とぼやく。
「取敢えず身体を休めて、解決すべきことを片付けてしまおう」
ノーマには他に優先するべきことがある。ウィルの言葉がまるで遠くで水面を穿つ雫のように、柔らかく響いて染み渡る。うまく頷きを返したかはっきり分からないまま、ノーマはゆらゆらとした眠りへ意識を沈めていった。
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