デート(210809)
「デートに行くよ」
その一言で、綱吉は襟首を掴んで部屋から引っ張り出された。部屋で一緒に宿題をしていた炎真の丸い目を最後に、綱吉は悲鳴を上げて落下する。
彼をそんな風に引きずり出した張本人は、綱吉をバイクの後部に座らせると、無理やりヘルメットをかぶせる。それから自分もヘルメットをかぶって、ハンドルを握った。
「え、え?」
「しっかり捕まってないと落とすよ」
脅しは効いたようで、綱吉は「ひっ」と喉を引きつらせると、強い力で雲雀の腰に腕を回した。
そんな傍若無人ぶりで雲雀が綱吉を連れ出した先は、
「こんなのデートじゃない!」
土と岩だらけの荒れた山。こんな場所で、しかも正体不明の敵と戦うことをデートと認めない、少なくとも綱吉は。
「何、不満?」
トンファーの返り血を払い、離れたところで綱吉が相手した以上の人数を咬み殺し終えた雲雀は、首を傾げる。死ぬ気が解けた綱吉は、砂で汚れた頬を拭きため息を吐く。
「いえ、何でもないです……」
この男に何を言っても通じないだろう、直感ではなく経験談だ。
窓から恋人を引っ張り出すような誘い方をして、恋人を餌に喧嘩相手を集めて――これに関しては恐らく家庭教師も一枚噛んでいる筈だ――、自分の身は自分で守れと地面に放り投げるような男。彼に水族館や映画館といったティーンズ雑誌に紹介されるような甘酸っぱいデートなど、期待できない。
大きく息を吐いて、足についた砂を払う綱吉。トンファーをしまった雲雀は、それを見て何を思ったのか、フムと顎を撫でた。
「小動物」
一声かけて、視線を向けた綱吉へ雲雀はヘルメットを放る。もう帰るのか、と少し口を尖らせた様子の彼へ、雲雀は小さく口角を上げて見せた。
「どこへ行きたい?」
先にバイクに座っていた雲雀の後ろへ綱吉が跨ると、そんな言葉。「へ?」と綱吉は首を傾げた。
「水族館? 映画館? 群れていなければどこでも良いよ」
ポカンと口を開いていた綱吉は、言葉の意図するところを察し、顔を赤くした。
「あ、えっと……」
「ん?」
「……取敢えず、一度家に戻っても良いですか……? 炎真をそのままにしちゃったし、服も汚れたし」
雲雀はパチリと瞬きし、照れたように俯く綱吉を振り返って見る。確かに、先ほどまでの戦闘ですっかり砂まみれだ。ふむ、と頷き雲雀はヘルメットをかぶった。
「しょうがないね。じゃあ、着くまでに行きたいところ決めておいてね」
雲雀がハンドルを掴んだので、綱吉は慌てて返事をしてヘルメットをかぶった。
ギュッと雲雀の腹に回された腕が、行きよりも熱く感じるのは、身体を動かしたせいか、それとも他の理由か。雲雀にはどちらでも問題ないことだ。

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