比翼のこどもたちT
・ダーリンインザフランキス、パロ
・攻め=ステイメン、受け=ピスティル
・スレミク、スパルカ、ワルセネ、ミトジニ、シンイオ、ユリフレ、ヴァンガイ
・ハチナナの存在に夢を抱いているので、本家設定にいろいろ捏造付与
・8話ネタ

人類が成功した超深度掘削により、発掘されたマグマ燃料。並外れたエネルギー効率と引き換えの地殻変動、環境破壊により地表は荒廃する。やがて人類は緑が失われた大地に巨大移動要塞都市(プランテーション)を建設し、文明を謳歌していた。
しかし、突如として現れた謎の巨大生命体が、次々に都市を襲撃し始めた――その名も叫竜。
天才科学者集団APEは叫竜に対抗すべく、人型ロボット兵器FRANXXを開発した。それに乗り込み人類を守る使命を与えられたのは、二人一組のコドモたちである。

操縦者施設の中にあるとある屋敷。六組のコドモたちが寄宿舎として日々生活する場所である。叫竜に対抗すべく造り出されたFRANXXは、二人一組の操縦者によって操るものであり、個人の能力だけでなく互いの相性や感情も操作に影響を与える。つまりペアとなった二人は信頼関係で結ばれているのが理想であり、FRANXX搭乗の最低条件なのである。しかし今、寄宿舎の中ではコドモたちが二派に別れ、剣呑な雰囲気を漂わせていた。
「最低」
じろりとした睨みをきかせたり、恥ずかしげに目を潤ませて身体を抱きしめたりしているのはピスティルのコドモたちだ。対してステイメンのコドモたちは気まずげに視線を落としたり、申し訳なさそうな色を浮かべたりしている。
事の発端は、先日の叫竜戦であった。
さして苦戦する叫竜ではなかった。ある程度場数も踏んできて、FRANXX同士の連携もとれてきた頃合だったため、余裕と言ってよい戦いぶりだった。問題点は、その叫竜が吹き出した体液とそれをFRANXXの頭からかぶってしまったことによる。
特に視界を隠すわけでもなく、粘性の高い体液はデロデロと頭から足元へ流れて行った。途中、内部に侵入してきたついでに、ピスティルたちの服を溶かしながら。
ピスティルたちは、始め自身のスーツが溶けだしていることに気が付かなかった。しかし四つん這いに構えるピスティルたちの背後に座っていたステイメンたちの視界には、スーツが溶けだし少しずつ顕になる肌が、否応なしに入ってくる。色事に耳年増なスパーダやユーリ、ミトスなんかは、その様子をじっと見つめてしまっていた。我慢できなかったのは、スレイである。
彼はミクリオの肌面積が広がっていく光景に耐えかねて、思わず目を瞑り叫んだ。
「見得ちゃうよ!」
そこでやっとミクリオや他のピスティルたちも異変に気づき――そしてその様子を楽しんでいたステイメンたちがいたことも発覚し、現在のような怒りと軽蔑の眼差しを向けるに至るのだ。
「そりゃ、目の前にあるんだから見るだろうがよ」
いつまで経っても止まない軽蔑の視線に嫌気がさし、スパーダは頭を掻きながら吐き捨てた。彼へ向かうピスティルたちの視線がより一層冷たくなり、特にパートナーで、スパーダに肌を突きつける形になってしまっていたルカは、ますます顔を赤くした。今にもこぼれ落ちそうなほど瞳を潤ませ、ルカは自身の肩を抱く。彼を庇うように立ち、セネルは腰に手を当てた。
「くだらない」
その様子を見ていたワルターがそう吐き捨てた。彼のパートナーであるセネルは耳ざとくそれを拾い、睨みつける。
「くだらない、だと?」
「裸体を見られたくらいで喚くな」
「俺たちはお前たちが、浅ましい感想を抱いたことに怒っているんだ!」
「それはしょうがないよね」
ワルターとセネルの言い合いに横槍を入れたのはミトスだ。彼は始めから一人ニコニコと、疚しいことはないと言った体を見せている。
「あの体勢、お尻が目の前にくるんだもの。つい見ちゃうって」
「このバカ!」
ユーリが口を塞ぐがもう遅い。ピスティルたちは皆、怒りと羞恥で顔を真っ赤にした。ルカは泣き出してしまっている。どうにか場を取りなそうとしていたフレンまで、顔を赤らめて俯いてしまっているのだから、ミトスはかなりの失言をしてしまったのだ。
中でも彼のパートナーであるジーニアスは、プルプルと握った拳を震わせた。
「ミトスのえっち!!」
くだらない、とシンクは心中呟きため息を吐いた。隅の方で腕を組む彼へ歩み寄り、イオンは顔をのぞきこんだ。
「……シンクも、そんな目を、してしまいますか?」
「は?」
何を、と問おうとして、シンクは先程までの会話を思い出す。
いつも眼下にある四つん這いの身体。そのスーツが溶け、白い肌が顕になった時点でシンクはそっと視線を横に動かしていた。動かしたが、ばっちり見てしまったことに変わりはなく。
こちらを見つめるイオンの顔とその肌がフラッシュバックで重なり、思わず頬に血が上った。
赤くなったシンクの様子で悟ったのだろう、イオンもカァァと顔を赤らめ、駆け足でピスティルたちの方へ逃げていった。

屋敷を真っ二つにするが如くあちこちに貼られた白いテープを見て、ユーリは溜息を吐いた。「なんだよこれ!」と憤慨したスパーダが飛び出そうとするのを抑え、ユーリはどういうことだと視線でフレンに問う。他のピスティルたちと共に白線の向こう側に立つフレンは、困ったように苦笑した。
ピスティルたちの先頭に立ったセネルが、腰に手を当ててジロリと睨みをきかせた。
「ステイメンはこの白線からこっちに入って来るな」
「はあ?!」
スパーダは声を裏返し、ワルターはヒクリと頬を引き攣らせる。ユーリは大きく息を吐いて、額へ手をやった。
「何、勝手なこと言ってやがる!」
「ミトスたちがえっちだから悪いんじゃないか! このまま普通に共同生活するのは嫌なんだ!」
顔を赤くして、ジーニアスも負けじと言い返す。スパーダは思わず口を噤み、彼らの背後で隠れるように立つルカを見やった。ルカはスパーダの視線を受けて肩を揺らし、慌てて俯く。赤い顔を隠されたことでスパーダの頭に雷のような衝撃が走り、彼はガクリと肩を落とした。
「……そんなことが許されるとでも思っているのか?」
戦力外となったスパーダを押し退け、腕を組んだワルターが前へ出た。
「大体こんなただのテープ……」
「もし超えたら……もぐぞ」
「……!」
白線を踏み超えようとしたワルターは、セネルの低い一言にピタリと動きを止めた。その言葉を聞いていたスレイたちの背も、ゾワリと泡立つ。静かになったステイメンたちに満足したか、セネルはニヤリと笑った。
「……おいフレン、どうにかできなかったのかよ」
セネルたちに気づかれないよう白線へ近づき、ユーリは状況を静観していたパートナーへ声をかける。フレンは少しも困った様子を見せず、それどころか微笑ましい光景を眺めているように小さく笑った。
「良いじゃないか、楽しそうで」
「楽しそうって、お前……」
「それに、君もえっちぃ目で見ていたみたいだし?」
「はあ?!」
思わずユーリは声を上げる。フレンはクスリと笑い、トンと自身の唇を指で叩いた。そのままクルリと踵を返して他のピスティルたちと共に階段を昇っていく背を見送り、ユーリはヒクリと頬を引き攣らせた。
かくしてステイメン対ピスティルのコドモ戦争は、幕を開けたのである。

「それは思春期というやつですねぇ」
画面の向こうで本を捲りながら、男は少々興味深そうな声音で言った。画面の前に立っていたガイとヴァンは顔を見合わせた。
二人は、スレイたちコドモの管理を務めるAPE作戦本部の所属員だ。このたびのステイメンとピスティルの騒動を、FRANXX開発者でこの部隊責任者の彼ジェイドに報告したところ、返ってきたのが先の言葉だった。
思春期とは、ガイやヴァンも知識として知っている。ある年齢期に達した『こども』に起こる、性的な変化期だ。
「けど、十二人全員がそんな調子なんだぜ? 全員が同時に思春期になることなんてあるのか?」
「過去の事例を見ても、思春期が訪れるのは一人か二人の筈では?」
二人の言葉に口元を緩め、ジェイドはパタンと本を閉じる。
「まあ、『普通』はそうなのでしょうね」
含みのある物言いにガイたちは眉を顰め、また顔を見合わせる。この科学者は回りくどく、決して解答を教えてはくれないのだ。それは昔からのことで、慣れたと言えば慣れたものなのではあるのだが。
「とにかく、このことはAPEの御老体たちには内密にお願いしますよ」
「報告しないのか?」
「何のための試験部隊だと思っているのですか」
何かあれば逐一報告するように、そのときにAPE上層部――七賢人――には報告しないように。そう念を押し、ジェイドは一方的に通信を切った。
切られた黒い画面を見て、ガイは溜息を吐く。それから手近の机に身体を預け、髪を掻きむしった。
「全く、分けわからないぜ。あれが普通?」
朝方訪れた寄宿舎の惨状を思いだし、ガイはうんざりと顔を歪める。コドモたちが誰も彼もあんな調子になってしまったら、まともにFRANXXを起動できるわけがない。
ガイの言葉に首肯を返しつつ、ヴァンは蓄えたヒゲを撫でた。
「……貴公もあのような時期があったな、ガイラルディア」
ぽつりと溢された呟きに、ガイは思わず声を上げた。
「俺が? 馬鹿なこと言うなよ、ヴァン!」
冗談じゃない! とガイは顔を顰める。しかしヴァンの微笑ましいものを見るような視線に、ガイの肌はカァと熱くなった。
「……いつ叫竜の出現があるか分からないんだ。いつまでもあんなことさせていられない」
さっさと彼らの幼稚な喧嘩をやめさせようと口早に言って、ガイは部屋を出て行く。その背中を見つめ、ヴァンは「くく」と笑い声を漏らした。
「そういうところは、変わっていないのだな」

ごしごしと乱暴にタイルの床を磨いていく。少し手を止め、イオンは額に浮かんだ汗を腕で拭った。
「掃除は自分たちでやるってのも、大変だよねぇ」
ブラシの柄に顎を乗せ、ジーニアスはぼやく。
「食事はガイさんたちが用意してくれるもんね」
雑巾を絞っていたルカは、頬についた泡を拭いながら笑った。
「でも楽しいよね」
「そうですね」
ルカの言葉に、イオンも同意する。こうして身体を動かして何かをするというのは、大なり小なり達成感があるものだ。ジーニアスは同意できないのか、唇を尖らせる。
「働いたらお腹が減る。そしたら食事も楽しみになるだろ」
脱衣所を掃除していたフレンが、一段落したらしく顔を覗かせた。ミクリオもタオルも差し出して、食事にしようと誘う。ジーニアスは慌てて水で泡を流した。
しかしジーニアスたちの浮足立った心は、素気無く叩き落とされた。
「……」
「よお」
お前らも食うか? と肩越しに振り返ったユーリが手を振る。彼と同じ机では、スパーダたち他のステイメンたちが、ガツガツと料理にかぶりついていた。
セネルとジーニアスは慌てて、引いた白線の在り処を探した。白いテープは貼りなおされたように歪みながら、階段を降りたところで曲がり、食堂の入口を覆うように伸びていた。セネルたちが引いたときは、ピスティル領になるようにしていた筈だが、今はステイメン領になっている。誰の仕業かなど、明らかだ。
「うまいなぁ!」
スパーダがわざとらしく、大きな声を出す。ぐぅとピスティルたちの腹が鳴った。
ユーリが微笑を湛えて立ちあがり、しっかり白線を踏まない位置でフレンたちへ手をさしだした。
「こんな意地の張りあいはなしにしようぜ」
鼻孔を擽る匂いと聴覚に訴える言葉に、ジーニアスの理性が揺れた。しかし彼を押し止めたのはセネルと、傍観者の体を見せていたフレンだった。
「物でつろうとするなんて、意地が悪いな、君は」
ユーリの作戦がフレンの癇に障ったらしい。選択を誤ってしまったかと、ユーリは頭を掻いた。
「あれ、ミクリオ?」
こんなところで何をしているのだと問う声に、ミクリオは少々驚いて振り返った。そして言葉を失う。
「スレイ! なんて恰好しているんだ!」
スレイとミトスは何故か上半身裸で、腰から下もタオルを巻いただけという恰好。少し髪が濡れて垂れ下がっている。ミクリオの勢いに少々おされ、スレイは頬を掻いた。
「なんでって……ミクリオたちの方に風呂場がとられちゃったから、外で水浴びしてきたんだ」
「だからって……!」
少し水滴の残る胸板から目を逸らすように、ミクリオは慌てて顔を伏せた。
「あのときは見ちゃったからね。存分に見て良いんだよ、ジーニアス」
ミトスは腕を広げて見せる。唖然となって硬直していたジーニアスも、すぐに我に返り震える拳を握った。
「ミトスの、ばかー!」
こちらは裸体を見られて恥ずかしかったというのに、相手がちっとも裸体を見られることに羞恥を感じないなど、フェアじゃない。
ジーニアスを皮切りに部屋へ駆けこんでいくピスティルたちをただ見送り、ユーリは溜息を吐いた。余計こじれさせてしまったと、痛み始める胃を撫でて。

ルカが温室の扉を開くと、そこには先客の姿があった。ポケットに手を入れてただぼんやりと辺りを眺めていたシンクは、物音でルカに気づき視線をくれる。ルカは慌てて手にしていた文庫本をポケットへしまった。
「入っても、いいかな」
「……別に、許可が必要な場所じゃないでしょ」
そう言うと、シンクは顔を背ける。ルカはホッと息を吐いて、彼から少し離れた花壇の煉瓦に腰を下ろした。
「……シンクも、花を見に来たの?」
「別に。……ただ、あの騒ぎに巻きこまれたくなかっただけ」
シンクは呟くように言って、顔の近くまで伸びていた葉を摘まむ。「素直じゃないんですよ」――彼のパートナーの言葉を思い出し、ルカは思わず口元を緩めた。気配で気づいたのかジロリとシンクに睨まれてしまい、慌てて口を手で覆う。
「……あんたこそ、向こうにいなくて良いの?」
「え?」
「裸を見られて一番泣きそうになっていたのはあんたじゃないか」
だと言うのに、同じステイメンである自分といて良いのか。シンクの問いにルカは口を噤み、足元へ視線を落とした。もじもじと爪先を動かし、ルカは膝に顎を乗せる。
「そりゃあ、確かにあんな目で見られていたことはショックだったよ……でも、あそこまでしなくても……」
「随分身勝手だね」
「うう……」
正論に言葉もない。項垂れるルカの頭を一瞥して、シンクはそっと溜息を吐いた。
「何か思うことがあるなら、誰かの影に隠れてないで自分で言いなよ」
ルカは思わず顔を上げた。シンクはルカの方を見もせず、入口の方へ歩いて行く。「シンク?」と思わずルカは名を呼んだが、シンクは聴こえていないのか無視しているのか、温室の軽い扉を引く。
「僕、そういう卑怯者嫌いなんだ」
ぱたん、と扉が閉まる。
一人残されたルカはまた足元に目を落として、きゅっと唇を引き結んだ。

ルカが部屋に戻ると、ジーニアスが奇声を発して枕を叩いているところだった。
「もう、ミトスのやつ!」
「本当、今回ばかりはユーリの意地の悪さに言葉もないよ」
いつもコドモたちをまとめるリーダーとして理性的に振る舞うフレンも、珍しく頬を膨らめて腕を組んでいる。ルカはそっと足を忍ばせ、彼らの様子を苦笑いで眺めていたイオンの隣に腰を下ろした。
頬を膨らめるフレンたちに同意して、セネルは膝に頬杖をつく。
「いっそ、このままっていうのも良いかもな。ステイメンの奴らと仲良くしなくても」
「そんな!」
思わず声を上げ、ルカは立ち上がっていた。皆の視線が集まり、ルカは思わず口ごもる。
「何か、言いたいのですね、ルカ」
震える背中を優しく撫で、イオンが助け舟を出す。ルカは胸のところで手を握りしめ、声を振り絞った。
「や、やっぱり、今のままだとダメだと思うんだ」
「ルカ……」
「僕は一人だと何にもできないダメな奴だけど、皆や……スパーダたちと一緒なら、いろんなことができて、叫竜だって倒せて……」
コクリと乾いた喉を唾でなんとか潤し、ルカは顔を上げた。
「二人なら、生みだせるんじゃないかって……! 奇跡、とか……」
少しずつ、ルカの頬は熱くなった。何を急に熱弁してしまったのだろう、と冷静になった頭で気づいたのだ。イオンが立ちあがって、丸くなる背をトントンと撫でた。ルカの言葉を受けてセネルたちは少し居心地悪そうに顔を歪め、視線を落とした。
「……あ」
窓辺に寄りかかって外を見やったセネルが、声を上げる。どうかしたのかとフレンたちも傍らから顔を覗かせる。
眼下に見得る中庭にいたのは、スレイとミクリオだった。

「何とかならないかなぁ」
大きく息を吐いて、スレイは肩を落とした。彼の隣に座り、ミクリオは空を見上げた。
「……確かに、このままではまずいかもな。任務に支障をきたすかもしれない」
「それもだけど……このままの空気は身体に悪いよ」
先ほどもあまりに口論を続けていたため、管理官のガイにきつい叱責を受けてしまった。いつもにこやかな笑顔でスレイたちを包みこむような愛情を見せてくれるガイの滅多にない怒声に、スレイは精神的ダメージを処理しきれないでいた。
何となくミクリオには、ガイの叱責には八つ当たりも含まれているように感じたのだが、気づいていないスレイにわざわざ告げる必要もないだろうと口を噤んだ。
「喧嘩なんて……したくないな」
「何でだい、すれば良い」
え、と顔を上げるスレイに微笑かけ、ミクリオは立ちあがる。それから腕を広げ、クルクルと踊るように回った。
「僕らはまだこどもなんだ。言葉を飲みこんで静かに暮らしていたら、つまらないおとなになってしまうよ」
ミクリオの言葉は、スレイには少し理解しがたいものだった。太陽の下、白い裾を翻しながら笑うミクリオの笑顔が綺麗に見得た。だから赤くなる頬を手で隠しながら、ミクリオの言葉について問いを重ねることはせず、クルクルと踊る姿を眺めていた。

その夜、ミクリオに説得されたピスティルたちと、スレイに引っ張られたステイメンたちは広間で顔を合わせていた。
「……」
「……」
「ほら」
そっぽを向いていたスパーダとワルターの背を押し、スレイはニコリと笑う。ミクリオも、そっとルカとセネルを前に引いた。両者はスレイたちと向かいに立つパートナーを一瞥し、視線を落とした。
「……悪かった」
沈黙を破ったのは、意外にもワルターであった。驚いてセネルが彼を見ると、ワルターは顔を横に向けたまま、腕を組んだ。
「気分を害する真似をして、悪かった」
耳を欹てていないと聴こえないような、小さな声だった。スパーダも、それに弾かれたようにその場で膝をつき、額を床へ擦りつけた。
「本当にすまん、ルカ!」
「す、スパーダ!」
慌ててルカも膝をつき、早く頭を上げるように言う。そんなやりとりと一瞥し、セネルは吐息を漏らした。
「……俺も悪かった。意地を張り過ぎたな」
ホッ、と後ろで見守るイオンたちが緊張を解いたのが、音と気配で分かった。
フレンが労うようにセネルの肩を叩くと、ユーリがスッと手をさしだした。ユーリの笑みを見てフレンも微笑み、和解の印としてその手を握った。
「ごめんね、ジーニアス」
ジーニアスの両手を掴み、ミトスは逸らされる彼の顔を覗きこもうと首を動かす。膨らめた頬を見られぬよう首を横に向けていたジーニアスは、小さな声で「……僕もごめん」と呟いた。ミトスはパアと顔を輝かせ、ジーニアスを思い切り抱きしめる。ジーニアスは声を裏返し、慌ててミトスの肩を押した。
そんな問答を眺めていたイオンの傍らに、シンクがそっと歩み寄る。イオンがそちらを見やると、シンクはサッと顔を背けた。素直じゃない、そうこっそり呟き、イオンは小さく笑った。
スレイとミクリオは顔を見合わせ、任務成功を祝して互いの拳をぶつけたのだった。

「やっぱりコドモらしくないな、あいつら」
階段の踊り場で手摺に凭れかかり、ガイは小さく息を吐く。ヴァンは少し口元を和らげ、同意を返す。
「しかしまあ、楽しそうではないか」
「呑気だな、お前は」
顔を顰めるガイに肩を竦めて見せ、ヴァンは彼の金髪をくしゃりとかき混ぜた。
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