HALLOW New World
(シルバー&ブルー)

「シルバー、」
珍しく不安げに揺れる金色の瞳がもたらした報せに、息が一瞬止まった。



息を吐く。外気の冷たさに晒されて白くなった呼気は、ゆっくりと夜の空へと上っていく。立てた団服の襟に顎を埋め、シルバーは二三日前の記憶へ思いを馳せた。

「ブルー元帥が行方不明になった」
本部待機のエクソシスト全員を集め、グリーンはそう言った。小さくない動揺が走る中、シルバーは拳を握りしめる。
姉のように慕っていた師匠は元々気紛れな性格故、神出鬼没として知られていた。しかし昨夜、彼女愛用の通信用ゴーレム――ブルーはぷりりと呼んでいた――だけが発見されたと言うのだ。ゴーレムは完全に機能停止しており、攻撃を受けた跡まで確認された。いくらゴーレムを壊されたと言っても、通信手段などいくらでもある。しかしその後、彼女からの連絡はない。
「伯爵側が、ハート候補者を元帥に仮定したという情報もある。よって今回の任務は、各元帥の護衛だ」
ハート―――109あるイノセンスの源であり、それを手に入れた方が勝者と言っても過言でないほど、この聖戦には重要なものだ。誰の、どんなイノセンスであるか、それは依然として明らかでない。伯爵は今回、エクソシストの中でも特に実力を認められた四人にその的を絞った。今世界でそれを名乗ることを許されたのは、ブルーの他に、室長代理であるグリーン、それと特殊型イノセンスを所持するレッドとイエローの四人である。
「イエローにパールとダイヤ。俺にはルビーとサファイアがついてくれ」
と言っても、この二人は基本教団にいるので実質待機扱いだ。問題はこれだ、とグリーンは前置きしてちらと目を上げた。
「ブルー探索班にはシルバー、ゴールド、クリス。そしてレッドだ」 
微かに動揺が走る。レッドはグリーン達三人と同様に元帥だ。そんな彼をどうして。そんな疑問を予想していたのか、グリーンは落ち着いたもので淡々と説明をする。何てことはない。過去の実験で取り込まれたままの血のお陰で、ブルーとグリーンにはレッドの居場所が解るというだけなのだ。逆もまた然り、三人は共鳴し合っている。それをあまり過去のことには触れずに説明したため、事情を知らない者は小首を傾げた。つまりは彼女の居場所は、レッドなくして突き止め得ない。
「ともかく頼んだぞ。ブルーが最後に立ち寄ったのは――……」

「この港、か……」
回想を終え、目前に広がる黒々とした海を見つめたシルバーはそう呟いた。港、ということは船を使ったのだろう。その確認をしに行っているため、仲間は今誰も傍にはいない。不安はない。彼女が簡単にやられるわけがない。この海の先に、必ずいる。そう確信していた。
手を降ながら駆けてくる先輩に手を振り返し、予想した言葉を受け取った。
「行こう、海の向こうへ」
彼女の元へ。
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テーマ「人外ファンタジー」
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