出き心と群青
(誠凛一年ズ)



始まりは、河原の何気ない一言だった。

「キャプテンってお母さんみたいだよな」

時は昼休みの誠凛高校、その屋上。丸くなって顔突き合わせ各々の昼食を頬張っていたバスケ部一年の四人は、手を止め一斉に発言者を見やった。突然何言い出すんだこいつは。そんな副声音までぴったり合わせて。

「いや、そう思わねぇ?」

しかし喋り出すと自分の世界からすぐには帰還しない河原は、周りの目など気にせず喋る喋る。彼曰く、木吉をたしなめる姿がまるで夫婦のようなのだと。真っ向から否定出来る要素がなかっただけに、黒子は言葉に詰まってしまった。そして、それがまずかった。

「確かにそうだけど…したらカントクの立場がねえじゃん。それにオカンなら水戸部先輩だって、それっぽいだろ」

この御人好しめっ。図書委員コンビの心がシンクロする。人助けが趣味なだけあって、福田は他人を無下には扱えない。それがよく知った友人であってもだ。彼は場の空気を取り成す心算だったのだろうが、今の一言は余計この話題を広げる切っ掛けになってしまった。現に河原の目は輝きを増している。

「いや水戸部先輩は長男だな、俺的に。キャプテンは料理出来ないからそこら辺をやってくれるんだよ。カントクは木吉先輩の妹…伯母さんポジションだな」

完全に河原の独壇場である。しかし彼の言う家族を想像してしまった降旗は、それに納得してしまい、反論の口を閉ざした。

「次男は伊月先輩、格好良いし落ち着いてるし。三男が小金井先輩かな」
「…土田先輩は?」

黒子陥落。もじもじと肩を動かしたりして興味津々なのを隠しきれなくなり、終には参加した。

「土田先輩は彼女いるだろ、それに父性もある。だから日向先輩の弟で俺たちの父親だと思うんだ」

そう言って河原は指で円を描く。その中に入っていたのは降旗、福田、河原のC組トリオだ。

「長男俺、次男福田、三男降旗な」
「異議有り!」

降旗がビシリと手を伸ばす横で、福田も同意するように頷く。

「なんで俺が次男なんだよ。誕生日は俺の方が早いし、背も俺の方が高い!」
「出席番号順だ!」
「あれどう足掻いても俺が末っ子だ!」

よよよ、と肩を落とす降旗の隣にいた黒子が、遠慮がちに河原の袖を引いた。

「河原くん、僕達は?」

食べ滓を口端につけたまま、火神も興味深げに顔を寄せてくる。河原はにっこりと笑った。

「火神と黒子は水戸部先輩達の弟。火神が四男で黒子が五男な」
「異議有り」
「いや、これは流石に適役だと思うぜ」

火神の言葉と福田降旗の頷きに、黒子は解せぬと呟いて小さく頬を膨らめた。

「けど、福田の方が兄っぽいのは同意だな」

降旗の一言に、今度は河原が口を尖らせる。

「俺的には降旗黒子、火神福田が同じ年で面倒見てるってイメージなんだよ」
「けど福田くんなら火神くんだけじゃなく、年下組全員の面倒も見てそうですよ」

決定だな、と福田が笑う。河原はまだ不服そうだ。

「小金井先輩も土田先輩の子供にしちまえば?」

なんかその方がしっくりくる。火神の意見に、確かにと四人は頷いた。人数のバランス的にも良さそうだ。

「つまりまとめるとー」

父:木吉先輩
母:キャプテン
長男:水戸部先輩
次男:伊月先輩
三男:火神
四男:黒子
伯母:カントク
伯父(父):土田先輩
従兄弟(長男):小金井先輩
従兄弟(次男):福田
従兄弟(三男):河原
従兄弟(四男):降旗

※伊月先輩―カントク、火神―河原、降旗―黒子が同年代

「ということになります」
「「「「異議無ーし」」」」

揃った声と挙手に、屋上で昼休みを過ごしていた他の生徒達は何事かと注目したのだった。

誠凛バスケ部一年は、今日も仲良しである。



title HENCE
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