なるとと!
(ちまナルと遊馬)



それは冬も入り始めのある日のこと。

「はあ?」

最近覚えた煙草を銜えたアスマは、三代目火影である父親からの命令に気の抜けた声しか返せなかった。落ち着こうとヒルゼンのしかめっ面も気にせず紫煙を吐きだすが、更に眉間の皺が深くなったのでさすがに悪いと思い携帯灰皿に煙草を押しつける。

「俺は御免だぜ、親父。…ガキのお守なんて」

一瞥した先には、ソファの上で丸まる毛布がある。その中に居る子供の面倒を見ろと、目の前の父親は言い放ったのだ。

「不良息子の更生には丁度良いじゃろ」

痛い所をつかれては、アスマとて言葉に詰まる。何を隠そうこの男、つい先日まで里を出て火の国まで家出していたのだ。そこで守護忍十二士として一応は働いていたのだがその任期が終われば無職も同然。生活苦によってすごすごと帰宅してきたという経緯がある。

何年か振りの帰宅を迎え入れたヒルゼンは拳一発で許してくれた。と、思っていた。まさかこんな形で罰を与えてくるとは思ってもみなかった。

「…大体俺に子育ては無理だ」

最近結納を交わした兄弟と違い、自分にそんな女はいない。結婚の予定すらない男に、それをすっ飛ばして子育てしろとは、なんとも無理難題をおっしゃる御人だ。

「お前だから任せるのじゃ」

火の無いパイプを銜えて微笑むヒルゼンは久方ぶりに見る、父親の顔をしていた。アスマはその顔が幼い頃から少し苦手だった。何もかもを見透かしたような、薄気味悪いような笑み。兄弟と違い出来の悪い息子だったアスマは後ろめたい思いばかりで、それに抗えないのだ。

「……解ったよ」

溜息を吐いて、ソファで眠りこける毛布を抱き上げる。予想よりも軽いそれに、思わず目を見張った。

「助かる。お前がダメだとカカシに頼まねばならんからの」

それは大変なことだ。あの変態に子育てなど任せた日にはどうなる事やら。その様子を想像して、アスマはぶるりと肩を震わせた。

「…ま、やるっきゃないか…」

溜息を吐くとそれが脂臭かったのか、腕の中の金色がふるりと揺れた。

***

「聞いたぜ、アスマ」

パチン、と小気味良い音がする。シカマルの一手にアスマは小さく眉を潜め居心地悪そうに頭をかいた。

「子供を育ててるんだって?最近煙草をやめたのもその所為かよ」
「あー…まあな」

生返事をして駒を進める。しかしアスマの劣勢は変わらない。

「どんな奴だよ。名前は?」

間髪入れずシカマルが一手を下す。その顔は心底面白がっているといった風だ。勿論、似合わない子育てなんてものをしているこの師の姿に対して、である。

「ナルト」

碁盤を睨んだままアスマは呟いた。ようやっと駒を置いたが、先程までのような次の手がこないので不思議に思ってアスマが顔を上げると、そこにはシカマルの不機嫌そうな顔があった。

「…まさか、九尾のガキか?」

苦々しげなシカマルの声。その言わんとしていることを悟って、アスマは小さく溜息を吐いた。

「俺はそん時里外任務だったから詳しくは知らねえが…危険なんじゃねーの」
「まだ三歳の子供だ、何が出来る」
「子供だからこそ。感情のままに暴走する恐れがある」
「だから俺が世話役なんだろ」

堂々巡りの討論。尚も食い下がるシカマルにアスマは面倒とばかり頭を振った。

「一度会ってみればいいだろ。案外、お前は気に入ると思うぞ」

何せナルトの父ミナトに、彼の父シカクは敵わなかったからだ。蛙の子は蛙、ということである。

「冗談。子供なんて面倒臭せー」
「そうかよ」
「あすまー」

部屋の奥から舌足らずな声が聞こえる。更に深くなるシカマルの眉間の皺は障子から覗いた姿によって瞬く間にかき消えた。

「起きたのか、ナルト」
「ん…だれ…?」

眠いのか目を擦りながら現れた黄金色の子供は胡座をかいたアスマの膝上に乗り上げる。そんな彼を当たり前のように抱上げるアスマは父親そのもので、ふたりが本当の親子であるようにシカマルには感じられた。

「奈良シカマル。俺の部下だ」
「…よぉ」
「ナルトだってば!」
「だってば…?」

ナルトの口癖を拾ったシカマルはよもやと言いたげにアスマを見やる。両親経由での知り合いだった彼である。頭の回転も早いとあれば、簡単に答えを割り出せた筈だ。

アスマは頷くとナルトの頭を撫でた。その心地好さにナルトがふにゃりと笑った瞬間、





ずきゅーん!





何処からか、そんな鉄砲音のような音が聞こえた気がしたが、目を瞑ることにした。

寝起きだった為かナルトはアスマに寄りかかると微睡み始め、やがては眠りについてしまう。柔らかい頬を指で撫で、アスマは無意識に口許を弛めた。シカマルに気色悪いと毒づかれるのはそのすぐのことである。




2012.03.08
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