それはきっと世紀末に似たラブソング
(灰ネム)

※予告CM聞いただけの本編未視聴時に衝動のままに書いたもの



それは茹だるような暑い夏。耳鳴りのように蝉の鳴き声が響き、辺りを飽和する。

「あーつーいー」
「…」
「暑いぞー、灰羽ー」
「…そうだな」

チリン、と風鈴が風に揺られて音を立てる。開放した縁側に灰羽とネムは並んで座り、たまに吹き込む風に涼を求めていた。パタパタと団扇で扇ぐが、生温い風しかやってこない。とうとうネムは焦れてそれを放ると、灰羽の膝に頭を落とした。膝と顔面―――ネムの投げた団扇の所為だ―――に突然やってきた痛みに、灰羽は小さな呻き声を上げる。しかし触れた温もりと重さからネムの仕業と知り、口からは無意識の吐息が溢れた。灰羽が団扇で自分を扇ぎながら、ネムのさらさらとした髪を撫でると、その優しい手つきに、ネムは思わず口許を弛めた。
仰向けの状態から半回転すると、ネムの目には青々とした木々が飛び込んでくる。先程からわんわん鳴いている蝉達は、多分彼処にいるのだろう。

「…なぁ灰羽、知っているか?蝉は地中から出て七日しか生きられないんだそうだ」
「定説だな」
「が、それは間違いらしい」
「は?」
「人間が飼育するには難しいだけらしい。実際はもっと長生きするんだ」

と言っても一ヶ月かそこらだが。ネムはそう呟いて、瞼を下ろした。時折吹く風が髪を撫で、肌にまとわりつく汗を乾かす。だがそれよりも、灰羽の手の方が心地好かった。

「…虚しいものだな」

やっと光の下に出られたのに、その余命は短い―――まるで揚羽のようじゃないか。結局、『光』は与えるよりも奪うものの方が多い。
ネムは瞼を閉じたまま、下唇を噛み締めた。灰羽の武骨な手が額を擽る。闇の中それを掴むと、無理矢理瞼の上にのせ、自ら闇を深くした。

「…蝉のあの鳴き声は、伴侶を探すものだったな」

手を離してくれそうにないネムにこっそり吐息を溢した後、灰羽は顔を上げそう呟いた。相変わらず風景は見えない。絶えることのない蝉の鳴き声は煩し過ぎて、まるで無音のようだと錯覚する。

「短い一生を愛に捧げる―――」

灰羽の声だけが聴こえる。灰羽の体温だけを感じる。ネムは擽ったくて、思わず彼の手を離した。パッと開いた視界は瞑っていた所為か、若干揺らいでいる。何度か瞬きして涙を払うと、灰羽の顔が視界一杯に飛び込んできた。

「はいばね?!」
「俺は…」

益々近づいてくる端整な顔に、ネムの頬には朱が入る。普段は自分が主導権を握っているから、たまに灰羽に迫られるとどうして良いか解らなくなってしまうのだ。わたわたする間にも灰羽は身を乗り出して来ており、パニックも極みに達したネムはぎゅ、と目を閉じた。

こつん、

「―――俺の余生の理由がお前であると、嬉しい」

汗ばんだ額に、熱く広い額が重なる。目を開くと、してやったりと笑う灰羽の顔があり、ネムは恥ずかしいやら腹立たしいやらで益々顔を赤くした。
灰羽!
怒鳴って腕を振り上げるが、相手はそれを予想していたらしく、避けられてしまう。

「ネムは?」

不意に投げ掛けられた問いにはたと動きを止めてしまうが、何を訊ねたいかは解っていた。にんまりと笑って油断している胸元に飛び込んだら、灰羽はバランスを崩して倒れてしまった。暑かったけれど、いつの間にかそんなことは気にならなくなっていた。

「あたしもだ!」

まだまだ鳴り響く愛の歌。終わることのないそれらに負けないよう、僕らも声を張り上げて歌おうか。





2012.08.30
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