メーデー
オレは黒子のことが好き。
オレはバスケのことが好き。
オレはダジャレが好き。


じゃあ、黒子は、











メーデー











誠凛バスケ部は、人数が少ない。新設校だから、しょうがないとは言え、それでも普通の学校のバスケ部にしては人数が少ない。
少なければ、沢山のメリットデメリットがある。スタメンになりやすかったり、部員仲が良かったり。選手の層が薄かったり、一人一人の負担が大きかったり。しかしその中で最大のデメリットは、誰かが不調だと何を言わずとも悟ってしまう、悟られてしまうとこだと思う。

「伊月先輩」

ぼーっとそんなことをとりとめもなく考えていたオレは、近くにいた黒子にも気付かなかったらしい。何時ものことで、少し驚くけれど

「え…あ、悪い何?」

動揺も気まずさも押し込めて、続きを促すとほとんど無表情に近い顔で「大丈夫ですか」と心配された。オレは、そんなに変な顔でもしていたんだろうか。端から見れば、ただぼーっとしている風にしか見えないだろうに。

「大丈夫…って何が?」

と聞けば、「何がと言われると困るのですが…」と前置きしてから、いつもの竹を割ったように、ストレートに口にした。
「何となく、深刻なことを思い悩んでいるみたいなので」
不調ですよね、伊月先輩。と、付け足されれば、オレは苦笑するしかない。

「黒子も不調だよね」

と切り返せば、一拍置いて「……どこがですか」と返答。まさか、そう返されるとは思ってなかったらしい。

「お前も何かに思い悩んでるだろう。ほら、話してみろよ」

でもきっとそれは、オレの悩みとは別件。黒子の悩み事を、オレは聞いてやることは出来るけど、オレの悩み事を黒子に話す分けにもいかないから、突っ込まれる前に突っ込んでおく。

「…いえ、本当に大丈夫です」

そうか、と一言返して、オレ達は休憩を終了して練習に戻った。
試合中、黒子はやはり相変わらず不調だった。








「伊月〜今日はオレと一緒に帰ろ〜」

最近のコガは、とても機嫌が良い。木吉が帰って来るからだろう。本人も、「木吉が帰って来てくれて、嬉しい!」と公言していたし。その所為か、スキンシップも前の二割増くらいな気がする。

「…いや、いいけど…」

でも満面の笑みで人の予定を変更させるくらい強引ではなかった筈だ。しかもオレとコガは、家が反対方向じゃあなかったけ。

「いいけど?」
「オレ、日向と帰「日向〜!今日一日伊月借りるよー!」

オレの最後の言葉も聞かず、体育館に響き渡る大声で勝ってに許可をかっさらってしまう。全く、何なんだ。

「水戸部」

そして、今度は水戸部の名前を小言で呼んだ。アイコンタクトに定評のある二人に、そんなに多くの言葉は要らない。ほんの一秒互いの瞳を見ただけで、了解したように水戸部が小さく笑った。それを確認したコガも、小さく笑ってお互いの拳をゴツンとぶつけ合った。

(…………)

別に、羨ましいとは思わないけど。
そんな思いを底に沈めて、オレはコガに聞いた。

「水戸部、何だって?」

「うん、オレと一緒帰るの飽きたから、伊月と一緒帰ってって」

しれっと、澄ましたように真顔で言うから、オレは危うく吹きそうになってしまう。本人はきっと、うまい嘘をついたつもりなんだろうけど、なんだかなぁ。それでも、伊月はこの愉快な友人のことが大好きだから、「ふうん」と一応は信じるフリをした。








「で、なんでコガはいきなりこんなこと言い出したんだ?」

帰り道、家までの距離が近いオレを送ってから帰ると、コガは宣言した。家の人は大丈夫かと聞けば「今日は水戸部の家に泊まるって家族には伝えたから」と言ってから、水戸部のケータイに泊まる旨をメールしていた時の必死さは、少し笑えた。

「こんなことって?」

無事、今夜の寝場所を確保できたコガは、オレの半歩前を歩いて、横断歩道の横白線だけを渡るようにして移動する。

「オレに話したいことが、あるんじゃないのが」

そんな行動が猫みたいだと思いながら、オレは本題だと思われる話題を切り出した。

「ん〜『オレに』じゃなくて『オレと』だな」

クルリ、と半回転してコガが真っ正面からオレを見た。その瞳があまりにも澄んでいたから、オレは少したじろいでしまう。

「伊月、最近変だよね」

黒子が変なのはわからなかったけど、と付け足された名前に、伊月の心臓が小さく跳ねた。

「…オレの何処が変だって?」

「黒子のことを気にしすぎ。あと、いつものキレがない。何に迷ってるの?」

「……」

この友人はいつも真っ直ぐだ。ストレートで、直球で、純粋に相手を思いやる。だから、誤魔化しとその場凌ぎの言葉は一切通用しない。

「……コガと水戸部は、試合中よくアイコンタクトするよな」
自分と友人の名前が出ることは予想していなかったのだろう。拍子抜けたように「はい?」と聞き返してから「うん、まあ」と肯定した。

「試合中はさ、どんなこと思って会話《アイコンタクト》してんの?」

いきなりこんなこと聞いても、分からないだろう。勿論、伊月も半分本題の導入、半分煙に巻くつもりで聞いている。それでも小金井は生真面目に首を捻ってから、話始めた。

「え、と『ブロックしてー』とか『スクリーンGJ』とか?一番多いのは、お互いに『パス頂戴』もしくは『誰それにパスして』ってとこかな?」
「…『今日泊めてー』とか『あのお弁当のオカズ、もう一回作って』とか、ない?」
「そんな余裕ぶっこいてたら、オレらカントクに殺されるぜ」
「そりゃそうだ」

とオレら二人は忍び笑う。このまま和やかな空気で流そうかとも思ったけど、コガが真剣に「何で?」って聞くから止めた。

「―――よく普段の時も目で会話してるよな」
「目で会話ってか――…そりゃ、皆からみたら、オレの独り言だよなー、うん」
「……じゃあさ、目を見ただけで相手の考えていること……例えば、悩んでいること、分かる?」
「わかるよ」

と即答されて、オレは少し複雑な気持ちになる。こんなにも、彼らの絆を羨んだことはない。

「……そう」
「それが、どうしたの?」

と口にしてから、コガはピタリと動きを止めた。ああ、こいつはたまに凄く察しが良いから、バレてしまったのかもしれない。それでも良いかな、なんて思うっていうことは、オレって実は誰かにこの問題のことを相談したかったんだろうか、なんて他人事みたいに思っていた。

「伊月、お前まさか…!」
「多分、コガが考えていることで正解」

そう言って、オレは笑った。だって、笑うしかないだろう。

「この思いを伝える気なんてないよ」

けれど伝えたい。

「でも伝わっちゃうかもしんない」

伝わって欲しくないに。

「黒子が何で悩んでいるか、分かるんだ」

じゃあ、黒子もひょっとして。
目を伏せて笑ったから、自分のことのように受け止めて顔を歪める友達の顔は、目に入らない。

「いっそ、お前らみたいに、全部筒抜だったらいいのに」

中途半端。中途半端。

「オレはどうしたらいいのか、分かんないんだ」

只、お互いの『助けて』の救難信号しか、拾えない。









2010.09.21.
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