愛のコトバ
(氷黒)
※莉夢様リクエスト『氷黒でシリアスorほのぼの』
「I love you」
彼は何時も、別の国の言葉で愛を囁いて、柔かな水色の前髪にキスを落とす。
背中から前に回された腕に自分のそれを絡めて、黒子は彼のしなやかな胸に、背骨を沿わせた。そうすると、氷室は嬉しそうに黒子の頭に頬擦りして、彼を抱き締める腕に、力を入れるのだ。
「折れちゃいそう。ちゃんと食べてる?」
「食べてます」
黒子が口を尖らせると、氷室は相槌を返しながら、彼の項に額を寄せた。
冷たい。ひんやりとしたそこは、じんわりと温みを得て行く。
「氷室さん?」
「I love you」
暫くじっとしていたら、それを不思議に思ったらしい黒子が、身をよじった。氷室の腕から逃れるようなその躰を抑えつけて、耳元で囁く。吐息が当たったからか、はたまた、その吹き込まれた言葉の所為か、黒子は耳まで真っ赤にして俯いた。
そんな初な反応を見ていると、たまに心配になってしまう。いつ他の狼に食べられてしまうかと、気が気でない。まぁ、そんなことを考える自分もまた狼なのだが。
食べる前に、一つだけ聞いておきたい言葉がある。残念ながら氷室は、この初な恋人から、まだ愛の言葉を貰ったことがないのだ。催促しても茹で蛸みたいに赤面してしまって、それどころではなくなってしまう。
黒子が自分から言えるまで待とうと、我慢してきた。してきた、が、もう限界だ。自分がこの可愛い恋人においては、自制が効きにくくなることを、氷室は最近知った。
「黒子くん」
「…なんですか」
まだほんのり赤い頬をして、黒子は軽く睨んでくる。
「オレのこと、好き?」
暫しの沈黙。水色の頭は、小さく前後に揺れた。
「口で言ってくれないと」
解らないよ、なんて、意地悪を言ってみる。頬の赤みが、少し増した。
「黒子く―――」
「ボク、」
深く首を曲げて、真っ赤な耳と水色の襟足が散らばる項を見せて、黒子は呟く。
「―――死んでも良いと思いました」
「…は?」
キョトン、と氷室が目を瞬かせても黒子は、言いました、とそっぽを向いてしまう。
「え、黒子くん?」
「……言いました」
「えー……」
意味が解らないよと、呟いてみても、目の前の恋人は断固として口を開かない。溜息をついて、まぁいいか、と氷室は膝に乗る黒子の体躯を抱き締めた。
彼は何時も、外国の言葉で愛を囁くのだ。恥ずかしがりもせず。悔しいから、その訳で返事をしたまで。けど、やっぱり恥ずかしい。
「I love you」
また英語で愛を囁いて、額にキスを落としてくる。悔しいのと恥ずかしいのと嬉しいのが混ざって、また、頬に血が昇る。
「…I know」
知ってます、そんなこと。
2011.03.13