甘えん坊と恥ずかしがり屋の喧嘩
(水金・日黒)
※碧リクエスト『水金と誠凛が仲良しな話』



「水戸部の馬鹿野郎!」

突然、そんな叫び声が体育館中に響き渡った。










冬の冷えが厳しい中、そろそろクリスマスも近いな、などと呑気に考えていた日向は、その声によって我に返った。

「な、なんだ?」

辺りを見渡すが、皆訳がわからないのは同じらしく、一様に首を傾いでいる。ふと、その視線はある一点―――――ステージ横のゴール下に集まった。

わなわなと震える拳を握る小金井と、オロオロと彼を見下ろす水戸部。

何事かと部員たちが彼らに意識を集中させる。

「水戸部なんか…絶交だ!」

小金井は涙声で叫ぶと、踵を返して体育館から走り去った。思わずポカン、とその背中を見送ってしまった日向は、我に返ると、慌てて放心する水戸部に駆け寄った。

「水戸部、なにしたんだ?」
「コガと喧嘩したのか?」
「珍しいな、二人が喧嘩なんて」

わらわらと他の部員たちも集まる。しかし依然、水戸部は放心したままだ。余程ショックだったらしい。

「やっぱりっていうか、水戸部先輩と小金井先輩って、仲良いんですか?」

降旗がボールを弄りながら訊ねる。

「ああ。中学同じだしな」

伊月が頷く。水戸部のバスケをプレイする姿を見て、小金井がバスケ部に入るほどだ。喋らない彼の通訳として、木吉に話しかけてきたのを、よく覚えている。

「中学ん時は知らないけど、高校入ってからは初めてなんじゃないか?二人が喧嘩するの」
「え、マジスか?!」

こくん、と弱々しく首肯する水戸部。正直、痛々しい。この様子だと、本当に初めての喧嘩らしい。

「で、そんなに仲が良いお二人の喧嘩の理由は?」

黒子がぽつりと訊ねる。確かに、そこが一番気になるところである。水戸部は少し困ったように笑って、スッと二人―――――日向と黒子を指差した。

「は?」
「…僕ら、ですか?」

水戸部の首が縦に動く。訳がわからず、部員たちは顔を見合わせた。一人リコが、納得顔で頷いている。

「なぁるほどねぇ」
「カントク?」
「黒子くん、小金井くん探してきて。その辺にいると思うから」
「はぁ…」
「日向くんは、水戸部くんにアドバイス」
「は?なんの?」
「いいから!―――――ほら、皆は練習!WC近いんだから。全裸で告白したいの?」

リコの言葉に全力で首を横に振り、解散する。釈然としないまま、日向は水戸部と隅に避けた。黒子はボールを降旗に預けると、体育館から出て小金井を探し始めた。

それもすぐに終った。

「…先輩」
「……」

小金井は体育館裏に蹲っていた。黒子はそっぽを向く彼の隣に座る。

「どうかしたんですか?」
「……」

小金井は答えない。膝の上で組んだ腕に、顔を埋めている。

「僕とキャプテンが原因だ、って水戸部先輩が言ってましたけど?」
「……」

小金井は答えない。冷たい風が、吹き始めた。寒くて、黒子は膝に顔を埋める。

「…黒子と」

ぽつり、と小金井が口を開いた。

「…黒子と日向、イチャイチャしてたろ、さっき」
「…はぁ」

日向と黒子は付き合っている。部員公認だからと、日向が部活中でも抱き締めることは、よくあった。

「…水戸部は、してくれない」

ああ、と黒子は納得した。水戸部と小金井が付き合っているのは知っていた。本人たちは隠しているつもりらしいが、駄々漏れである。つまりは恋人らしいことをしたいのに、相手がしてくれなかった、と。

けどこれは、

(僕は悪くないですよね…)

まあ乗り掛かった船だ。手助けくらいはして上げよう。

「寒い、ですね」
「…うん」
「体育館も寒かったですね」
「……うん」
「水戸部先輩、風邪引いてしまうかも」
「…」
「小金井先輩が、暖めてあげないと」

小金井が顔を上げる。黒子は見つめ返して、

「小金井先輩から抱き締めてあげないと。水戸部先輩は恥ずかしがり屋なんですから」
「…っ!」

小金井はバッと立ち上がった。

「サンキュな!」

口早に言って、小金井は駆け出した。向かう先は、一つしかない。黒子は小さく嘆息した。

***

「水戸部!」
「!」

体育館の入口から出てきた水戸部に、飛び付いた。驚きながらも、水戸部はしっかりと小金井を受け止める。

「…冷たい」

ひんやりとした、相手の体。温もりを分けるようにして、小金井は腕に力をこめた。

「…」

水戸部も、小金井の背中と頭に手を回して、自分の胸に抱き込んだ。

「…暖かい」
「…」

同意するように、水戸部の大きな手が、小金井の頭を撫でた。





「まとまった?」
「ああ。ったく、世話の焼ける」
「いーじゃない。幸せそうで」

体育館の入口からその様子を見ていた部員たちは、笑みを溢した。




2010.12.23
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