無防備にも程がある
(木黒)



ホント、心臓に悪い。

「?なんですか?」
「いや…」

言葉を濁して、木吉は視線をノートに落とした。その様子に眉をひそめ、黒子も手元の問題集に意識を戻す。

そんな彼を、頬杖をついて木吉は眺めた。

テスト前だからと、黒子は勉強会を提案した。彼を自分の部屋に招待する絶好の機会だと、木吉はそれを快く承諾した。

そんな訳で今日に至るのだけれど、予想通りというか、木吉は勉強に集中出来ないでいた。理由は明白。黒子が無防備過ぎるのだ。

大きいのか指だけを覗かせる袖とか。パーカーの首元から覗く鎖骨とか。俯くことで頬や項を流れる水色の髪とか。思案する度に顎で押して芯を出す仕草とか。

もうホント、心臓に悪い。

突き刺すように降ってくる視線に気になったのか、黒子が顔を上げる。先程よりも間近に木吉の顔があって、少々驚いたようだった。

「…なんですか」

「んー」

適当に返事をして、木吉はシャープペンを握る黒子の手に、自分のそれを重ねる。
眉をひそめる黒子を気にせず、そのまま彼の前髪に口を寄せた。

「…ちょ、と」

くすぐったくて、黒子は身を捩る。脇の下から背中に手を回して、逃げ腰になる黒子を引き寄せた。

「せんぱ…っん」

文句を言おうと開く口を、塞いでやる。舌を絡めとると、短く声を上げる。重ねた手を開いて指を絡めると、膝にシャープペンが落ちた。黒子の目尻に涙が浮かぶ頃、糸を引いて舌を抜く。

息がととのわないまま、潤んだ瞳で睨みつけられた。その様子も、こちらを煽るだけだ。

「…なにするんですか」
「ムラムラした」
「は?」
「黒子、無防備過ぎるぞ」

更に訝しげに眉をひそめる黒子を、押し倒す。その拍子にパーカーの裾が翻って、白い脇腹が見えた。水色の髪が散らばって、クリーム色のマットレスによく映えている。

ほら、無防備だ。

「無防備過ぎるにも程があるぞ、黒子」
「言っている意味が解りません」

早く退いて下さい。冷たい黒子の瞳も言葉も。熱を、冷ますどころか、益々煽る。

「黒子、今から保健体育の勉強やろっか」
「は?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」

脇腹に手を這わしてくる木吉に呆れて、黒子は溜め息を一つ吐いた。何が彼を煽ったのか解らないが、ほだされる自分も甘いな、と軽く自己嫌悪しながら、木吉の首に腕を回した。





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2011.03.06
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