星空を翔る列車
自分は上月博士のクローン。
その事実を知った時から、抱いていた疑問がある。
クローンに、魂なんてあるの?
***
ああ、星空だ。プラネタリウムみたい。くるくる弧を描いて、星が速いスピードで流れて行く。地面も黒い鏡みたいで、頭上遥か彼方にあるそれを映していた。
此処は、何処だ。
地獄か、天国か。そもそも、世界なのか。
死期を悟った時、不思議と恐怖はなかった。サイやトウジ達に、また会えるのかな、と呑気に考えていた。けど、気づいてしまったんだ。
自分はクローンだ。神の御技を真似て、人が造った紛い物。そんな自分に、魂なんて在るのか?
サイ達はあるんだろう。何せ元は人間だし。けど母の胎内でなく試験管の中から産まれ出でた自分は?
今こうして立つ世界は、単なる自我が作り出した世界かもしれない。そうしたら自分は、―――孤独だ。
「綺麗ね」
熱くなる目頭を押さえていたら、すぐ横で声がした。上げた視線の先にいたのはシノ、いや色素が薄い髪、あれは、
「…ナナ、さん」
聞こえたみたいでナナは小首を傾いで見返してくる。
ああ、そうか。彼女もクローンだったっけ。じゃあ此処はクローン専用の天国―――
「なーにボケッとしてんの」
突然、肩を掴まれた。声の主に、驚かされる。
「ミキヤ?!」
「先輩と呼べ」
キョーヤもいるぞ、と背後を指差して、ミキヤはいつの間にか遠くを歩いているナナの背中を追った。気だるそうに彼らに続くキョーヤを見送っていると、今度は肩を組まれた。
「よ、カヅキ」
「ソーゴ…」
また駆けて行く背中を見送って、もしやと淡い期待を抱きながら背後を振り返った。
ポン、と肩を叩かれる。
「先、行ってるぞ」
トウジだ。後から、サンやツウがわらわらと走って行く。
涙が、溢れた。
「泣き虫だな、カヅキ」
「…何泣いてんの」
陽気な笑い声と、素直じゃない軽口。情けないと思いつつ、カヅキは声を上げて泣いた。
魂達を運ぶ列車の汽笛が、遠くから聴こえ始めた。
2011.07.07