忘れたいことをトランクにつめて
(宅→福)



鞄に、荷物を詰める。
服に筆記用具にタオルに歯ブラシに。
兎に角詰める。
手を動かしてないと、嫌なことを考えてしまいそうだった。

(あ、ノート…)

目当ての物を探して顔を上げる。
少し離れた所に転がるノートを求めて、手を伸ばす。



―――よかったな



ピタと。
思わず手が止まる。

あの時の。



―――おまえはちゃんと



相模の声が、言葉が。
ぐるぐるぐる。
頭の中を。



―――狐だよ



回る。
廻る。
巡る。



―――宅間くん



「……」

無邪気に笑う彼女の顔が。
今では眩しすぎて。
今はもう、想い出すのすら後ろめたい。

「…ごめん…っ。福田さん…」

熱くなる目頭を乱暴に拭って、下唇を噛み締める。
頭を振り払って、兎に角荷物作りに専念した。



人間だなんて。
同族だなんて。
馬鹿みたいに浮かれて。
もうこの想いすら、本当に恋なのだと。
断言出来ない。

自分は人なのか。
狐なのか。

もう、なにもかも。
曖昧で。
不透明で。
解らない。

ああ。
視界すら。
ボヤけて揺らぐ。



ただただ唇を引き結んで、荷物を詰めた鞄を、閉じた。





title by HENCE



2011.04.03
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