帰るところ
(吹円)



「吹雪、大晦日は暇か?」

彼がそう聞いてきたのは、三日前のことだ。

***

外に出ると冷たい空気に鳥肌がたったが、北海道ほどじゃない。吹雪はベランダに腰を下ろし、真夜中の黒々とした夜空を見上げた。

久しぶりに誰かと過ごす大晦日だったと。先程までのことを思い返し、吹雪は小さく笑った。

「吹雪…?」

ことり、と音がして、部屋主である円堂が顔を出す。目にいつもの覇気はなく、若干夢見心地といった風情だ。

「起こしちゃった?」

隣に座れるスペースを作りながら問えば、欠伸をしながら否定の意で首が振られる。円堂は毛布を手に、吹雪の隣に腰を下ろした。寒かったのか毛布を広げると、吹雪も巻き込んで丸くなる。猫のようだと苦笑しながら、吹雪は船を漕ぎ始める円堂の頭を自分の肩に引寄せた。

「…今日は、ありがと」

閉じた瞼に口づけると、ふにゃりとした笑顔が浮かぶ。

「…いつでもいいぞ」

それは、寝言のような声だった。





「ここも、お前の家だからな…」





すー…と静かな寝息がしたから、そのまま眠ってしまったらしい。それで良かったと、吹雪は思う。

新年早々恋人に泣き顔を見られるなんて、冗談じゃない。





title HENCE



2012.01.01
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