初詣とおみくじ
(南天)
「わぁ!」
天馬は思わず声を上げ、広げていた御神籤を握り締めた。慌てて周囲を見渡し人を探すが、何せ初詣の群衆、簡単にはいかない。
「ぅー、南沢さーん!」
声を張上げた所で、聞こえる筈もなく。少し寂しくなった天馬は寒さからか鼻を啜って境内の隅へ避難した。
中学生で初めてのお正月。初めて好きな人と訪れた初詣。初めての、
「…大吉の御神籤…」
はしゃぎ過ぎたかもしれないと反省しつつ、天馬は御神籤の皺を伸ばした。
受験で忙しいにも関わらず、天馬の誘いに二つ返事でのってくれた南沢。意地悪ばかり言うが、いざという時は優しいのだ。
体に吹き付ける風が冷たくて、身を竦める。ふと目に入った群衆の中のカップルが楽しそうに笑っていて。…少し惨めな気分になった。
(全然、大吉じゃないよ…)
いっそ捨ててしまおうかと自棄になった時、
「天馬」
優しい声と共に、甘い香りが鼻をついた。驚いて顔を上げると、額に薄く汗を浮かべた南沢が安堵したように吐息を漏らしていた。
「探したぞ」
言いながら、配っていたという甘酒を渡してくる。呆然とそれを受け取って、隣で自分のそれを飲む南沢をみつめる。そんな天馬を訝しがって――ついでに少し照れたように頬を赤くして――南沢はなんだよ、と訊ねてきた。
「……」
ぼ、と。何故か、音付で天馬は赤面した。これには南沢も驚く。
「天馬?」
「………っ南沢さん、俺…っ!」
大吉だったんです!大当たりです!
真っ赤な顔で声高に報告する天馬に、南沢はただただ呆気にとられていた。
title HENCE
2012.01.01