ハノイの塔
(南天)
初めてあいつの笑顔を見た時、その純粋さに気圧された。
松風天馬。
何処までも純粋で、何時でも真っ直ぐで。嗚呼こいつは汚せない、いや、汚してはいけないんだと。漠然と感じて、自分に酷く嫌悪した。真っ白なあいつに比べて、自らはなんと汚いことか!
けど、さ。
「南沢、先輩…?」
自分がそんなだからか、酷く望んでしまう。この白を、汚してしまいたい、と。
「どうかしたんですか?」
床に押し倒した松風は不思議そうに俺を見上げるだけ。無防備だな。そんなことしてると、本当に犯すぞ。
「実験」
「実験?何の?」
きょとんとする松風にもう黙れと。短く言って、口を俺のそれで塞いだ。
真ん丸くなる瞳。そこに涙が浮かんで赤くなる様を想像して。ぞくり、と背中に衝撃が走った。それが快感だと自覚しない程、俺は馬鹿じゃない。
ぺろり、と。口づけしたまま舌舐めずりすると、松風の体が小さく震えた。一緒に、奴の唇も舐めてしまったらしい。好都合とばかり口づけを深くすると、涙を湛えた瞳は固く閉じられた。
少しずつ膨らんでいく優越感。それもやがて快感に変わっていく。
これは実験だ。真っ白で無垢なこいつが、何処まで汚れていくか。何処まで、俺の色に染まるのか。
もし上手くいったら……それは凄く素敵なことのような気がして、自然と口角が上がった。
title:HENCE
2011.10.08