for 10years
(円堂と鬼道)



※『since 10years ago』の続き



「円堂」

昔は少年団が駆け回っていた橋の下のグラウンド。それが見える傾斜に座り込んでいた人物は、鬼道が探していた男だった。

名前を呼べば、昔と変わらない彼が、小さな微笑みを浮かべて振り向く。隣いいか、と一言断って、鬼道は円堂の左側に腰を下ろした。鬼道を一瞥して、円堂は無言のまま視線を、走る者のいないグラウンドに戻す。チョコレート色の前髪が風に揺れるのを見て、鬼道もグラウンドに目を向けた。

暫くの間、二人は辺りを吹き抜ける微風に身を任せていた。

「雷門の監督になったんだってな」

春奈から聞いた、と鬼道は付け加える。無感動な声で円堂は、ああ、と頷いた。その無表情な横顔を見つめ、鬼道は小さく眉を潜める。

「…フィフスセクターのやり方を、肯定したそうだな」

そう、それこそが鬼道が円堂を探していた理由だ。サッカーをやめたとは言え、鬼道とて今のサッカー界を知らないわけではない。まぁそれもこれも、鬼道財閥の権力様様なわけだが。

だからこそ、妹からその話を聞いた時信じられなかった。あのサッカーバカが、サッカーを侮辱するような行為を許す筈がない。だからそれを、今日確かめに来たのだ。円堂は鬼道の赤い瞳を見つめ、ふ、と小さく微笑んだ。

「ああ」

短い肯定の言葉に、鬼道の頭には鈍器で殴られたような衝撃が走る。信じることの出来ない現実に、体がフワフワと浮いていくようだった。

「…何故、」

そう訊ねた声は掠れていた。円堂は気にした風もなく、またクラウンドへと視線を向ける。

「…俺、思ったんだ」

10年前からあまり変わらない声が、風に乗って鬼道の耳に入り込んだ。

「影山は、卑怯なことをしてまでも勝利を求めた。エイリアやダークエンペーラズは強さを求めた、…勝利の為に。ガシルドは己の力を見せつける為に勝利しようとした」
「えんど、」
「だからさ、俺思ったんだ。フィフスセクターに管理されて、勝ちも敗けも、強さも弱さも、なにもかも平等になってしまえば、あの頃の悲劇は無くなるんじゃないか、って…」
「円堂!」

強く、鬼道は円堂の肩を掴んだ。反動で彼の瞳から堪えていた滴が溢れ落ちる。小さく嗚咽を漏らして、円堂は立てた膝に顔を埋めた。

「えん、」
「…解らないんだ。もう、」

何があった、と鬼道は訊ねた。そこまでお前を追い込んだのは何だ、と。少し躊躇うように間を置いて、円堂は口を開いた。

「…吹雪が、サッカーのプロになるって…」

円堂は強く唇を噛み締める。込み上げてくる熱い塊を、飲み下す為だ。鬼道は思わず彼の肩から手を離した。

「もう、解らない…」

フィフスセクターのやり方が気に食わなかった。だから数ある入団の誘いを蹴って、監督になると決意したのだ。それを愛しい人に報告した時のことは、忘れられない。頑張ってね、と彼は笑った。それに無邪気に頷いて、訊ね返した自分が憎らしい。少し困ったように眉尻を下げて、彼は微笑んだ。

ごめんね、と彼は言った。

そのことを思いだし、円堂の嗚咽はいよいよ止まらなくなってきた。

「…繋がってると、思ってた」

サッカーをしていれば、どんなに離れていようとも、何処かで繋がっている、と。今はもう、そうだと断言できない。

「吹雪はフィフスセクターを受け入れたんだ」

彼の肯定したサッカーを否定してしまえば、そこが自分達の終わりのような気がした。ただでさえ同性同士というハンデがあるのだ。臆病にも、なってしまう。だから、自分を納得させた。彼と、繋がっている為に。だけど、不安は増すばかりだ。

「もう、解らないよ…」

何もかも。

静かに嗚咽を堪える円堂の肩に手を伸ばしかけて、鬼道は拳を握った。彼の涙を止める言葉は、自分にはない。悔しいが、あの男にしか出来ないのだ。

無力な自分と原因の男に腹を立てて、鬼道は唇を強く噛み締めた。





2011.06.04
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