since 10years ago
(円堂監督と雷門中サッカー部)



※GO!ネタで捏造6話後
※『after 10years』の円堂監督ver.



それは、突然のことだった。

「久遠監督が、解雇…?」

放課後、サッカー部の部室に広がる重たい空気。その理由を知った松風もまた、他のメンバー同様、驚きを隠せないでいた。

「…先日の試合で、フィフスセクターの指示を無視してしまった責任、だそうよ」

説明する音無の声にも表情にも、元気が見られない。

「なんで!」
「これが、フィフスセクターのやり方か…」

声を上げる松風とは対照的に、神童はただ静かに唇を噛み締めた。

「…じゃあ、新しい監督がつくってことか…?」

南沢の呟きに、全員の視線が集まった。



***



薄く陽光の射し入る室内に、彼らは机を挟んで向かいあっていた。

「…ではサッカー部の新しい監督は君に頼みますよ」
「はい。ありがとうございます」

理事長の差し出す書類を受け取り、男は軽く頭を下げた。

「くれぐれも、前任の二の舞だけは避けて下さいよ」

理事長の隣に立つ冬海がネチネチとした声色で言う。男の、怒りを込めた鋭い視線に捉えられ、冬海は慌てて口を閉じた。

「…ご心配なく。フィフスセクターの指示に従えばいいんですよね」

低い、感情を圧し殺した声。男の持つ威圧感に呑まれて震える冬海に呆れながらも、自身の震えを必死に隠しながら理事長は深く息を吐いた。

「…そうだ、頼みますよ。―――円堂守監督」

オレンジ色のバンダナの下から覗く瞳に、光はなかった。



***



「俺、理事長に抗議してきます!」

松風はそう叫んで立ち上がった。こんなのはおかしい。久遠が解雇される理由はない筈だ。自分達は、サッカーをやっているのだから。

「待て、松風…!」

神童は彼を止めようと腕を伸ばした。その手が届くより早く松風は扉に駆け寄り。それは彼よりも早く、反対側から入ってきた人物によって開かれた。

「うわ!」
「!おっと」

勢いを止められず衝突してしまった松風を支えたのは、オレンジ色のバンダナをした男だった。雷門のジャージを着ているから部外者ではないらしいが、校内で見た記憶はない。
ただ神童にはひっかかるものを感じた。

「気を付けろな」
「あ…す、すいません!」

慌てる松風を見て浮かべる笑顔。どこかで見たことがある。誰だったろうかと首を傾げる神童は、名前と正反対の性質である顧問が珍しく大人しいことに気がついた。壁際に立つ音無を見て、神童はぎょっとした。彼女は口許を手で抑え、瞳に大粒の涙を浮かせ、静かに泣いていたのだ。原因はあの男なのだろう。音無の涙に気がついた部員達が二人を凝視する中、音無がゆっくりと男に近づいた。男の横に立つ松風が、心配そうに二人の顔を見比べている。彼を安心させるように肩を叩いて、男は音無に微笑みかけた。それに応えるように、音無も涙を浮かべたまま微笑み返す。

「…おかえりなさい、キャプテン」
「…ただいま、音無」

あ、と神童は小さく呟いた。恐らく霧野や三国も同じことを思っているだろう。
見覚えがある筈である。彼は、伝説の雷門中サッカー部キャプテン、円堂守その人であるのだから。



***



「あの、伝説のキャプテン…」
「なんか擽ってぇな」

あはは、と陽気に笑う彼には伝説などという厳かな肩書きは似合わない。きっとフィールドに立てば変わるのだろう。その力と魅力で以てして、チームを引っ張ってきたのだろう。神童は掌に仕舞い込んだキャプテンマークを握り締めた。

「でもどうしたんです?急に来て」

すっかり笑顔になった音無の質問に、円堂は誇らしげな笑みを浮かべた。

「じゃーん」

と彼が取り出したのは、少し皺のついた監督の任命状。

「本日付けで、俺がこのサッカー部の監督だ」

一瞬の間の後、部室はワ、と沸き上がった。あの伝説の大先輩に教えを請うことができるのだ。嬉しくないわけがない。

「よろしくお願いします!俺、松風天馬っていいます」
「おう!よろしくな、松風」

ぐりぐりと松風の頭を撫でる円堂。一見すると、兄弟か親子のようだ。

「じゃあ監督、何か一言」

大分騒ぎが収まった頃、やっぱり大人しくない音無が、まだ若干興奮冷めやらぬ様子で言った。

「あーそうだな」

思案するように語尾を伸ばして、円堂は期待の眼差しを向けてくる部員達を見回す。そうして、口許にだけ笑みを浮かべた円堂は言った。

「フィフスセクターのやり方に従っていこう」
「…―――え…?」

あれ、彼はこんな笑い方をしていただろうかと。思考停止した頭で、音無はぼんやり考えた。





2011.06.03
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