after 10years
(吹円)



※GO!ネタ



本日は快晴。真っ青な空の下に広がる緑の芝生。観客のいないスタジアムで、吹雪士郎は一人、練習用のユニフォーム姿で佇んでいた。足元に置いたボールを高く蹴り上げる。白と黒で彩られたそれは、大きく弧を描いて、立つ者のいないゴールのネットを揺らした。反動で転がるボールを、触れることもせずただ見下ろす。吹雪の落とす影の手前で、それは止まった。

(…つまらない…)

サッカーとは、こんなものだったろうか。FF1から10年経った。10年は長い。サッカーの在り方が根本から変わってしまうほど。そんなことを此処で考えている自分も、随分変わってしまっているのだけれど。フィフスセクターの管理するサッカー界。自分は今、その世界に甘んじている。生きていく為と、理由をつけて。

(アツヤは、怒るかな…)

軽く、ボールを蹴る。それは二三回転しただけで、また止まった。こんな世界に居座り続ける自分を、弟はさぞ軽蔑することだろう。弟だけじゃない。きっと、彼も。

(キャプテン…じゃないか。…円堂くん)

誰よりもサッカーが好きだった彼。フィフスセクターに反発して、早々に選手を辞めてしまった。今では母校で監督をしている。彼だけではない。染岡や半田、かつて共に戦った仲間は疾うにサッカーを捨て、別の道を歩んでいる。自分もそうすれば良かったのかと、吹雪は考える。何も食べていく為の手段はサッカーだけでないのだ。けれど、捨てられなかった。サッカーが好きだから、だけではない。円堂との繋がりが消えてしまうかもしれなかったからだ。彼とは、サッカーを通して知り合った。サッカーという共通点がなければ、一生出逢えなかったかもしれない。そんなことだから、吹雪にとってサッカーは円堂と自分を繋ぐ唯一の糸に思えてしまうのだ。

(…なんて、…馬鹿だ!)

プロのサッカー選手になると、報告した時の彼の顔は、今でも覚えている。そうか、と。悲しそうな笑顔が、脳裏に焼き付いて、離れない。

「…っ!」

カッ、と頭に血が昇った。自分に腹が立った。怒りに任せて、ボールを蹴る。風を切って飛んだそれは、ゴールの支柱に当り、甲高い金属音を響かせた。バウンドしてくるボールをぼんやりと見つめながら、吹雪は芝生に膝をついた。

「…っあぁあぁああぁ!!!」

嗚咽の混じったその咆哮を、聞く者はいない。





2011.05.28
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