振り向くな少年
(吹円←半)
俺は、円堂が好きだ。
多分、一目惚れだったのだと思う。サッカーが好きで、けれど少ない部員に辟易していた頃。何気無く視線を向けた校庭の隅の部室前で、一人リフティングの練習をしていた姿に、目を奪われた。サッカー部に入って、皆でサッカーして。中途半端なんて言われても、それだけで幸せだった。あいつと同じグラウンドに立てて、それだけで幸せだった。
だから今、俺はもの凄く不幸せだ。
「好きだよ、キャプテン」
曲がり角を隔てた廊下で、そんな声が響いている。俺はその声に背を向けて、壁に隠れて、ただただ立ち尽くしていた。指先すら動かせない。ど、と汗が出た。心臓の音がバクバクと激しくて、返答の声をかき消してしまったけれど、予想はついた。
見ちゃいけない。振り向いてはいけない。これ以上の絶望は、もう要らない。溢れでる涙を堪えもせず、声は圧し殺して、俺は泣いた。
中途半端な自分を、生まれて初めて心から憎んだ。
title by HENCE
2011.05.22