降臨者と裁定者
「やあ、星の王子さま」
とある秋の昼下がり。薄雲のかかる空をぼんやり眺めていたフゥ太の視界を、白が遮る。
「わ、いきなりびっくりした。白蘭……マーレの適合者だったよね。今ツナ兄とリボーンは出かけていていないんだ」
「あはは、大丈夫。今日は、君に会いに来たんだ。『外なる神の仔』フータ・デッレ・ステッレくん」
パタパタと背中の翼を動かしながら、フゥ太の隣に腰を下ろす白蘭。フゥ太は一度目を閉じて、彼を見つめた。
「……。話には聞いていたけど、すごいね。x軸の海としての記憶かぁ」
「まあ、それもある。けど殆どは、僕がそれを基に導き出した仮説かな。伊達に七兆九千九百九十九の世界を征服してないよ」
白蘭はトンと指で自分のこめかみを叩いた。フゥ太は垂らした足をぶらりと揺らす。
「答え合わせをしに来たの?」
「それは本命じゃない。けど、君がしたいというなら全文提出するよ。――外宇宙、チェッカーフェイスくんに使命を授けた存在とは別の異次元に住まう存在……便宜上、神と呼称しようか。外宇宙の神は、チェッカーフェイスくんたちの神の領域も征服せんとしている。そのために、この宇宙を、星を知ろうと考えた。その手段が君だ、フータ・デッレ・ステッレくん」
フゥ太は口を挟まず、口元に緩く笑みを浮かべていた。
「君のランキング能力は、神経を通して繋がった外宇宙の神の力によってこの星と生命の情報をスキャニングするもの。最も、骸くんのマインドコントロールで上書きされて、外宇宙の神との繋がりは断たれてしまったようだけど」
「すごいね、そこまで分かったんだ」
「素直に認めてくれて嬉しいよ。正ちゃんには信じてもらえなかったから」
「そうだろうね」
フゥ太は白蘭から視線を外し、空を見上げた。白蘭はじっとその横顔から視線を外さない。
「何故、トゥリニセッテが空とそれを染め上げる天候に喩えられるのか――それはつまり、大元となった石とそれを守護していたチェッカーフェイスくんたちが宇宙(そら)に属する存在だったからだ。x軸の海とy軸の貝と点Pの虹、この三つはこの星でありチェッカーフェイスくんたちの『そら』を示すものでもある」
「そちらが本命の話?」
「そう。ちょっと長いけどね。で続けるけど、この三点に属さずこの星独自で生み出された存在がある。それがシモンの大地の炎だ」
「ツナ兄のお友だちだね」
「これは言うなれば抑止力、星の防衛機能の結果なんじゃないかと僕は考える」
白蘭はフゥ太から視線を逸らさない。
「外なる神が特に観察対象としていたトゥリニセッテは、残り一つだけだ。その一つの傍にこの星の抑止力が常にいる状況で、外なる神は何をしようとしているか。君には分かるかい? 嘗て魔王の神子だったフゥ太くん」
フゥ太は揺らしていた足を止めた。それからゆっくりと白蘭の目を見つめ返す。微かに星の光る混沌の宇宙もしくは暗き海の色をしている――しかし一度目蓋の裏に隠れた眼は次に現れたとき、至って普通の虹彩をしていた。
「……さぁ? 僕には分からないよ。元々勝手に依り代にされたみたいなものだし。それを受け入れて楽しんでいたのは否定しないけれど。とっくに繋がりの切れた僕じゃあ、いつこちらも覗いているのかも、もう分からない」
「……そう。真実だと思って受け止めるよ」
「安心して。僕だってツナ兄たちに危険が迫ることは望んでいないんだ。何かあればすぐに知らせるよ、隠すことはしない」
フゥ太の真っ直ぐな視線を受けて、白蘭は肩のあたりまで両手を上げた。
「信じるよ。目がユニちゃんや綱吉くんたちと同じ感じだ。僕はその類を軽んじないと決めたんだ、痛い思いをしたくないしね」
「ありがとう」
パタパタ、と門の外から足音が聞こえてくる。賑やかな声も。ヒョイと門の向こうからまず顔を見せたのは、ボロボロの綱吉だった。肩にはリボーンが座っている。
「ただいまー……て、白蘭! 来てたの?」
「やっほー、綱吉くん。フゥ太くんに相手してもらってたんだ」
「ごめんフゥ太。……ていうか、大丈夫だったか? 白蘭と二人きりって……」
「中々不穏な組み合わせだな」
「あはは、リボーンくん正直!」
「笑いごと?」
「大丈夫だよ、ツナ兄。ちょっと内緒話してたんだ」
首を捻る綱吉に駆け寄って、フゥ太は彼の腹へ頬を擦りつけた。綱吉はまだどこか腑に落ちない様子。しかしフゥ太の身体を支える腕は、拒絶を示さない。その温もりに甘えながら、フゥ太はチラリと腕に添えられた右手に鎮座する無骨なリングを見やった。
天(そら)の輝きを受けても、フゥ太の瞳は色を変えなかった。
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