追うがいい
(UNIQLO×NARUTO DVDの妄想、鹿+鳴)
静かな夜明けだ。しかし空が曇っている為、まだ暫く日の光は拝めそうにない。今にも降りだしそうな曇天を見上げ、ナルトはそっと表へ出た。大分戦争も沈静化してきた頃合だ。後は仲間達に任せても良いだろう。自分は最後の目的を果たしに行く。そう思っていたのだ。しかしその決意は、
「ナルト」
「シカマル…」
この頭脳明晰な男によって早くも阻まれた。
足を止め、ナルトはシカマルを暫し見つめる。いつもと変わらずポケットに手を突っ込んで気だるげな彼は、長引く戦争の所為か小さな傷をいくつも作っていた。
「…行くのか」
シカマルは呟くように訊ねたが、別に答えなんて求めてはいない。あの力強い蒼には、揺るぎない意志しかなかった。それが解っているからこそ、力になれない自分が情けなく、言っても聞かない彼が腹立たしく。シカマルは小さく舌打ちを漏らした。それを聞き逃さなかったナルトが頭を下げたが、シカマルは気にするなと首を振って、それまでポケットに入れていた右手をほらと差し出した。そこに握られているものを見たナルトは目を開いて、シカマルとそれとを見比べる。
見覚えのある変わった形のチャクラ刀。ナルトの記憶違いでなければ、それはアスマの形見だった。
「それ…」
「長年アスマの風チャクラを吸ってきたんだ。お前の方が上手く使えるだろ」
風の性質を最大に引き出す武器であることに間違いはない。だが、
「いいのか?」
受け取りながら問えば、はにかんだ笑みが返ってきた。
「必ず帰って来いよ」
チャクラ刀を握り締め、ナルトは強く頷く。
「おう!サスケと二人で帰ってくるってばよ!」
その言葉に少し眉を潜め、しかし浮かべた笑み消さぬままシカマルは彼の肩を叩いた。
「いってきます」
その声を背中で聞いた後すぐ、そこにあった気配は消えていた。
「…いってらっしゃい」
呟いた言葉は誰の耳に届いたか。
それは風のみが知ることだ。
title 揺らぎ
2012.02.08