神を隠した子供
(鹿鳴)



窓から入り込んでくる風が、心地好い。夏の午後にしては過ごしやすい気温の中、この部屋の主である金色の少年は、簡素なベッドの上で夢の世界へと旅立っていた。

「全く…」

そんな彼を入口に立って眺め、シカマルは深い溜息を吐いた。鍵もかけずに爆睡とは良い度胸だ、と変な感心を持ちながら、ナルトが寝そべる横に腰を下ろした。頬にかかる金の髪を指で掬いあげると、眉間に僅かな皺が寄る。柔らかな髪と肌の感触を指先に感じて、シカマルは口許を綻ばせた。あどけない寝顔に、愛しさが込み上げる。
ふとシカマルの視線が、寝相の悪さの所為で乱れた衣服に落とされた。薄いシャツはよれて、腹部を風に曝している。シカマルはまた溜息を一つ、ベッドの隅で丸まっている毛布に手を伸ばした。

狐は、神の使いとされる。そういう場合は稲荷と呼ばれ、神社などで祀られるものだけれど。一方で、化け狐といった妖怪の顔も持つ。中々どうして。どちらにしても、化かしてくれる。

つ、と指で臍をなぞる。擽ったかったのか、ナルトは僅かに身を捩らせたが、起きる気配はなかった。

この腹に宿っているのは、妖か、神か。

女性が度々神聖視されるのは、その腹に神の所業である生命を宿すからだ。彼もそのようなものかと、真実を知った当初、漠然と感じた。
実際、九尾は封印されたのであるから、妊婦とは違う。言うなれば、神子だ。九尾という赤子を腹に宿し、その神力を扱う子供。その躯に、人ならぬモノを抱え込んでいるのだ。そういった人間が迫害を受けるのは当然、世の常。そこに、本人の責任がないとしても。…だからといって、赦せることではないけれど。

ナルトの、シーツに力なく転がされた手に、自分のそれを重ねて、指を絡める。じんわりとした温もりに、彼が人の子なのだと、改めて知らされる。

「シカ…マル…?」

幾分舌足らずな声で名を呼ばれる。寝起きでぼんやりとした視界を覗き込めば、やっぱり、とでも言うように、頬が弛んだ。

「あったかいから、シカマルがいるんだって思った」

無垢な笑顔、とでも形容できそうなほど、その顔は眩しかった。込み上げてくる熱をやり過ごしながら、そうか、と掠れる声で答える。

「寝とけ」

額に口づけて髪を鋤けば、ナルトは素直に目を閉じた。暫くして聴こえ始めてきた安らかな寝息に、抑え込んでいた嗚咽がぶり返されてくる。唇を噛み締めて、絡めた指に力を込めた。

この手に望まぬものが握らされることのないように。何がなんでも護り抜こう。あの、愛しい笑顔の為にも。

そう誓った、ある夏の午後。





title by 揺らぎ



2011.07.03
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