嘘つきソーダ
(青黒)
「ほらよ」
まだ吐く息が白い冬の日。珍しく部活に出た彼が、珍しく部活終了後におごってくれたのは、ソーダ味のアイスキャンディだった。
嘘つきソーダ
「…今、冬ですよ」
「分かってるって」
「…寒いんですけど」
「1月31日で暑かったら、地球温暖化ってレベルじゃないわな」
「……」
もう良いです。白い溜息を吐いて、差し出されたそれを受けとる。よく冷えたそれは、只でさえかじかんでいた指先を更に冷した。感覚のない指で、袋のなるべく冷たくないところを摘まむ。寒い屋外で食べる気は無かったが、鞄の中に入れて水浸しになるのも避けたい。
「で、どういう風の吹き回しですか?」
紺色のマフラーに顎を埋める彼に問う。青峰は言いにくそうに、頭をかいて視線を漂わせた。
「…誕生日、だろ」
「…知ってたんですか」
意外だと呟けば、桃井に聞いたと言う。彼らしいと思う反面、少し残念に思った。
「ま、相棒の誕生日くらい、祝ってやるよ」
くしゃくしゃと、浅黒い手が、頭を撫でる。そう言えば最近、その手に向けてパスを出していないな、と関係無いことを思い出して。それが無償に泣けてきて、子供扱いは止めて下さいと、最もらしい理由をつけて、手を払った。彼は苦笑して、あっさりと手を離す。
「来年も祝ってやるよ」
そんな言葉と共に。それが不可能に近いことを、自分は知っていたのに。
アイスは止めて下さい。
精一杯皮肉を言って、珍しく笑顔の彼の隣を歩いた。
***
「ありがとうございました」
店員の声を背中に、黒子はコンビニの自動ドアをくぐった。外に出た途端に吹き付けてくる風が冷たくて、マフラーに顔を埋める。白い息を汽笛みたいに流して、日の落ちかけた赤い道を歩いた。ガサガサと袋を探る音が、静かな住宅街に響く。購入したのは、ソーダ味のアイスキャンディ。隣に、今年も祝うと約束した友人はいない。
パッケージから取り出した真っ青なそれをくわえる。ひんやりと口内が冷えて、体温がどんどん下がっていくのを感じた。片手で棒を摘まんで、もう片方をポケットに突っ込む。
カサ…と指に触れたのは、今日受け取ったばかりの合格書。春から、新しい高校へ通う為の。
アイスキャンディの角をかじりとる。冷たいそれを、熱い喉に流し込んだ。
「嘘つき」
相手の解らない言葉は、冬の大気に溶けて消えた。
みんなみんな、嘘つき
自分だって
黒子ハピバ!
2011.01.31